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田中フルハウス 5話
「東雲さんはすぐ爺を甘やかすんだから」
幸太は自分が怒られている事に納得出来ないと腕を前で組み怒っている。
「それが東雲だろ?ヒデちゃんに冷たくする東雲見たいのか?」
照哉はパソコンを弄りながらニヤニヤと笑う。
「まあ、…優しいのが東雲さんだし。でも、爺を庇うのは嫌です!」
「東雲はじいちゃんに育てられたからなあ。だからヒデちゃんが粗そうやっても怒らないんだよ」
「えっ?そうなんですか?両親居ないんですか?」
「詳しくは知らない。じいちゃんに育てられたって前言ってたから」
「…でも、爺ばっか贔屓するのはヤダ」
理由を知っても幸太は面白くないとむくれている。
「ヒデちゃんにヤキモチかよ」
「悪いですか?」
「いや、悪くないけど…あんまり、ヒデちゃん苛めるなよ」
「照哉さんまで爺の味方なんですか!」
幸太はさらに膨れっ面になる。
「いや、…ヒデちゃんの噂知らないだろ?」
照哉の言葉に幸太はキョトン。
「仕事出来ない噂とかですか?」
「…いや、都市伝説的な噂」
今までニヤニヤしていた照哉が急に真顔になったので幸太も少し、神妙な顔になる。
「なん…ですか?」
「ヒデちゃん、ここでのボーイ歴はお前より短いんだけど、色んな店でボーイやってたのは知ってるよな?」
「それは知ってますけど、ボーイやってた割には仕事出来ないですよ」
「まあ、それは置いといて…ヒデちゃんが居た店…全部潰れてるんだよね」
「は?」
「面白いくらいに全滅してるんだよ。ヒデちゃん影で死に神って云われてるんだよなあ。潰れた店は潰れる前にヒデちゃんを解雇してるんだ。で、直ぐに潰れてる」
「死に神…って」
「田中店長、飛ぶ前にヒデちゃんを怒鳴ってたし、幸太もあんまり苛めると不幸になるぞ」
「まさかあ~」
笑ってみせるが幸太は明らかにビビっている。
そんな幸太を見て照哉はニヤニヤしていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「弁当が余ってるとです。貰うて良かですかね?」
掃除道具を片付け、ついでにゴミを捨てに裏口に来た東雲と英雄氏。
ポリバケツの上に誰も手をつけていないスタッフ用のお弁当が捨ててあるのを目ざとく見つけたのはもちろん英雄氏。
居なくなった田中店長の分であろう。
「お腹壊すよ」
「大丈夫とです。こん前も食べたですけど腹痛くならんかったですもん」
平然と答える英雄氏に東雲は驚く。
「食べた?マジで?」
「平気かったですよ。最近の若っかもんは食べ物ばすぐ粗末にするけんイカンです。昔は食べるとに必死やったとですよ」
英雄氏はそう言いながら弁当を手にする。
「ダメだって」
「ばってん腹減っとるとです」
「さっきお弁当食べてたでしょ?とにかくダメ!」
「誰も食べんとですけん良かじゃなかですか!可哀想かですもん」
「弁当が?」
「なして弁当?猫ですばい」
東雲は、ん?っとなった。
「猫?」
キョトンとなる。
「私が可愛がりよる猫です。」
あ、猫…。
東雲はホッとした。
英雄氏が食べるのかと勘違いしていたのだ。
「それならイイよ。でも、お弁当は1人一個の決まりだから内緒ね。」
東雲がそう云うと英雄氏はいそいそとエコバッグにお弁当を入れた。
「こん弁当は量少なかですよね。すぐに腹が減るです」
英雄氏はお腹をさすっている。
「お腹減ってる?」
「はい。」
「あんま、腹の足しにはならないけど、コレあげるよ」
東雲はポケットから飴を出し、英雄氏に渡した。
「東雲遅かったな」
部屋に戻ると照哉と幸太がパソコンを見ていた。
「ゴミ捨てて来た」
「あー、健太の当番なのに!スミマセン」
幸太は椅子から立ち上がり東雲に頭を下げる。
「良かとですよ。当番忘れると良くある事ですもん」
幸太の前に自分の手柄のように威張る英雄氏が現れ、ムッとする。
「ジジイに言ってねーし!」
手でグーを作ると英雄氏を殴る真似をする。
「若っかもんの得意技の逆ギレとか云うやつですばい。」
英雄氏はまた東雲の後ろに隠れる。
「ジジイ、東雲さんから離れろよ!」
怒る幸太に英雄氏は舌を出す。
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