6 / 135

田中フルハウス 6話

「じじいー、いい加減に」 「こら、幸太」 英雄氏に殴る真似をする幸太を東雲が止める。 「なんで、いつもジジイ庇うんですか!」 拗ねたように口を尖らせる幸太。 「それは特別な存在だからです」 「はあ?」 特別な存在だと言ったのは英雄氏。 幸太はふざけるな!と睨む。 「特別な存在なわけないだろ?」 「特別な存在です。べるさーちおりじなるば貰ろうたですもん」 「は?」 幸太がキョトンとなる横で照哉は笑い出す。 「あはは、そんなCMやってるね」 「そうです。こん飴は特別な人にしかやらんとですもん」 英雄氏は得意げに飴を幸太に見せる。 「CMを鵜呑みにすんなよ!ばーか!」 「片割れは飴貰うた事あるとですか?」 「うっ」 確かに、貰った事ない幸太は黙り込む。 「それにバッグも貰うたです」  追い討ちをかけるように英雄氏は幸太にエコバッグを見せつける。 「そのバッグ、俺も欲しい」 「それ、雑誌の付録だから買えばついてくるけど?」 東雲がそう云うと幸太は目に涙をため、 「東雲さんのばかあー」 と叫びながら、部屋を後にする。 「待つです、まだ自慢するとがあるです」 優位に立ったのが嬉しいのか英雄氏は幸太の後を追う。 「なんだかんだで仲良いなあ。」 東雲は誤解をしているようだった。 「しばらくはヒデちゃんイジメしないと思うよ。死に神の話を都市伝説っぽく話したから」 「あの話?」 東雲の質問に照哉は頷く。 「東雲、命名の漆黒の死に神の話」 「真相は話してないわけですね?」 「もちろん」 照哉は微笑む。 英雄氏が死に神と言われるようになった真相は…。 英雄氏が最年長ボーイで入って来た日、東雲と照哉で質問攻めにした。  「ここに来る前どこに居たんですか?」 東雲の質問に、 「2丁目のピーチっちゅう店で客引きばしよったとです」 と英雄氏は答えた。 「ピーチ?あれ?先週、警察のガサ入れで摘発されて営業停止くらった店だよね?」 照哉が思い出したように口にする。 「はい。そうですばい、店が潰れましたけん」 「摘発…、何で摘発されたんですか?」 東雲は初耳だったようで 、そう質問した。 「確か、やってはいけない客引きを…」 照哉はそこまで云って英雄氏を見た。もちろん東雲も。 英雄氏は客引きをしていたと言ったよね?と2人は頭で彼のセリフをリピートさせた。 「英雄さん…客引きしたの?」 英雄氏は頷き、 「店の為と思うて客ば店に連れて行ったら、そん人達は警察やったとですよ。ワタシ、店長に怒られましたもん」  と言った。 そりゃあ…営業停止になるなあ…と2人は頷く。 「ピーチの前は?」 「夜の蝶って店です」 「そこも2ヶ月前に営業停止になってましたよね?」 英雄氏が口にした店名も営業停止で潰れていた。 理由は風俗店が営業して良い時間を守らなかったから。 「もしかして、英雄さん…営業時間を誰かに聞かれて正直に話しました?」 「はいです」  東雲の質問に英雄氏は返事をする。 英雄氏に営業時間を聞いたのはきっと、警察だ。 「その前は?」 照哉はすでに笑いをこらえている。 「確か、バンビって店です」 英雄氏が口にした店名も、もちろん半年前に営業停止になっていた。 その店も違反をしていたのだ。 その後も英雄氏が口にする店名はすべて今は無くなっている。 しかも原因は全て、英雄氏。  未成年を働かせていたとか、不法滞在とか…聞かれた質問に答えた結果だった。 しかも本人は自分が原因だとは分かっていない。 見た目、か弱い老人。 害が無さそうなのに、一番害があり、それに気付かない質の悪さ。 田中店長が飛ぶはめになったのも英雄氏が原因。 毎回、客とトラブルを起こし、風俗情報満載のネットに店名やトラブル内容を書き込まれて、店は今の状態になったのだ。 売り上げ急激ダウンに店を仕切る上の者に話がいき、命が危ないと悟った店長は逃げ出した。 ネットの書き込みは照哉がサーバーに侵入して消しているので英雄氏が原因とはバレてはいない。 疫病神? いや、確実に営業停止と云う死をもたらした英雄氏は… 漆黒の死に神と東雲が命名した。 当の本人はあの通り天然ぶりを発揮していて、悪い人ではないと東雲も照哉も分かって居るので優しいのだ。  今夜も客はまばらで閉店を迎えてしまった。 「東雲さんが店長になるから店、持ち直しますよ」 寮への帰り道、健太が東雲の横を歩く。 「当たり前の事いうなよ」 幸太が言う。 東雲を真ん中に左が健太。右が幸太で歩く。 その前を照哉と英雄氏が歩く。 もちろん、全員同じ寮に住む。 「そう言えば、新人は名前何と言うんですか?」 英雄氏が急に話に入って来たので、また、幸太がムッとするが文句は言わない。 飴を気にしているのか、死に神の話を信じているのかはわからないけれど。 「田中シンジだったかな?」 照哉が答える。 英雄氏は暫く考え、ニヤリと笑った。 「ワタシ、凄い発見ばしました」 得意げにいう。 「なに?」 「誰も気付いとらんでしょ?言うて良かですかね?驚きますばい」 照哉が優しく聞いてくれるので英雄氏はさらに得意げな顔になり、 「新人が来たら、しのめさん以外、全員田中ですばい、凄かですね」 得意げに云う英雄氏を見つめる4人…。 えっ?今更?と全員が言葉にしたいのを我慢した。

ともだちにシェアしよう!