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純情な感情 4話
***
シンジは仕事帰りにコンビニに居た。
暇潰しに本をパラパラとめくる。
本が配置されている壁は硝子張りでシンジはたまに外を気にするようにチラチラと見る。
コンコン、
硝子を誰かがノックする。
シンジが視線を向けると、派手な女が手を振る。
彼は本を閉じると、外へ出る。
「アンタ今どこいるの?」
派手な女は馴れ馴れしくシンジに話しかける。
「どこだっていいじゃん」
面倒臭そうに答える。
「そうね、携帯あれば繋がるし」
「何の用だよ」
「お金貸して」
女はニッコリと微笑む。
「返したためしないくせに、良く貸してって言えるよな」
「いつか、利子つけて貸してあげるわよ」
女は悪びれた様子もなく、シンジの前に手を出す。
彼は財布を出して、2万程、女の手の上に置く。
「これだけ?」
少ないと女は訴える。本当に図々しい女。
「ねえよ」
「クレジットは?」
「ない」
「え~」
本当に図々しい。
クラクションがいきなり鳴り、女は慌てて車の方へ走っていくと乗り込んだ。
またろくでもない男と…シンジは舌打ちをする。
「何ばしよっとですか?」
急に声をかけられ、シンジは飛び上がるくらいに驚き、振り向く。
英雄氏が立っていた。
「いや、別に」
「女の人とおんしゃったでしょ?」
「は?」
シンジは聞き返す。
「綺麗か女の人とおったやなかですか?」
「…あ、もしかして、誰かって聞いてるの?」
シンジは英雄氏が話す方言が半分理解出来なかったのだ。
「そうですばい、綺麗か人じゃったけん」
「母親だよ」
「ほー、そがんですか!あげな綺麗か人が」
シンジは通訳欲しいなあ…と苦笑いしながら、綺麗と何度も出てくる言葉で褒められていると分かった。
「あんなの綺麗じゃないよ」
シンジは否定した。
「ああ、言われてみたら綺麗じゃなかったかも知れんです。派手でしたもん」
シンジが否定すると合わせたような英雄氏の言葉に吹き出した。
「あはは、そうだよ、派手なだけだよ、あんなの」
「そうですばい派手じゃった」
英雄氏は頷く。
「先輩、どこの出身なんですか?」
シンジは笑いながら聞く。
「博多ですばい」
「福岡ですか?」
「おおっ、凄かですね。福岡って分かるとですか?」
え~と、馬鹿にされてるのかな?
シンジは思ったが単純そうな英雄氏に悪気はないと思った。
「あの、俺が母親と会っていたのは他の人に内緒にして貰えますか?」
シンジのお願いに、
「良かですばい、恥ずかしかですもんね、母親が様子ば見に来たとか、嫌ですもんね」
英雄氏の言葉でお金を渡していたのは見られていないとホッとする。
「ところで先輩は何をしに?」
「ああ、忘れとったです、雑巾買うて来いって言われてたとです、いかんばい!また、金髪が威張って怒るです」
英雄氏は慌てたようにコンビニに入る。
雑巾?
シンジは外で英雄氏を待つ。
待つ事、数分…英雄氏が戻る。
しかも袋がパンパン。
そんなに雑巾を?と袋を覗く。
「廃棄のオニギリとかですばい、あそこの店長は良か人でしてね、ようオニギリとかくれるとです」
英雄氏は嬉しそうに袋を見ている。
「良かったですね」
あまりにもニコニコ笑うので、シンジは笑顔でそう言った。
「メケメケの分もあるとですよ」
「は?」
メケメケ?
福岡の方言だろうか?
「私が可愛がいよる猫ですばい」
「メケメケって名前なんですか?」
「メケメケ・ニャンケローズ・2世ですばい」
「名前ながっ!」
思わず、突っ込む。
「メケメケと呼びよるです」
寮の近くに来ると、
にゃーん
猫の鳴き声。
「こいがメケメケですばい」
英雄氏はシンジに猫を紹介する。
「へえ、可愛い」
シンジが近付くとメケメケは足元に来る。
撫でると腹を見せる。
「メケメケ、餌ですばい」
英雄氏が近寄ると、 シャーっ! と牙をむき威嚇する。
あれ?
「可愛がってるんですよね?」
「照れ隠しばい。」
ぷっ、
シンジは笑いを必死にこらえた。
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