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 瑠維を訪ねて来たのは、一年前に結婚式を挙げた弟の璃音だった。 「久しぶり。  上がってもいい…?」 「お、おう…」  遠慮がちに聞く弟に、瑠維も少々ギクシャクしながら応える。 「ありがとう。  これ、受けとってくれる?」  差し出されたのは、兄弟が一番好んでいる「甘甘大王」を使ったケーキだ。  綺麗に包装された箱なのに、中からみずみずしい苺の香りがしてくる。 「サンキュ」  怖ず怖ずと受け取ると、漸く璃音が笑みを浮かべた。  お互いぎこちないのには訳がある。  かつて瑠維は璃音を深く深く愛していた。  深すぎる情は業火の如きうねりとなって暴走し、自分ではない相手を伴侶に選んだ璃音を、瑠維は凌辱してしまうに至った…。  精神崩壊を起こしかけた璃音は自我ごと体を殺そうとし、伴侶となった龍嗣が生命をかけて引き戻し…。  長い時間をかけた再構築を経て、璃音は龍嗣と結ばれたのだった。

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