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「いつまでも僕に敬語を使わないで。  瑠維の伴侶ということは、僕のお義兄さんって事なんだし。  煩い小舅って思うかもしれないけど、そろそろ…ね?」 「あ…、すみま…」  人差し指を弓削の唇の手前に出して制止する。 「敬語はナシ。………ね?」  言い置いてビルの中へ足を進める。  働き過ぎだと窘めて行った璃音。  自分を気遣っているように見えて、何かが違うと弓削は感じた。 「…………………?」  普段なら直ぐに気付いたであろう。  だが。  重度の禁断症状に陥っていた弓削には気付く事が出来なかった。  璃音の背中から、怒りがうっすらと陽炎のように立ち上っていたのを。  それは、正に水上兄妹の母と同じ瘴気の渦だったのに。  視界の端で首を傾げる弓削を見遣って口端が上がった璃音の顔は、荊櫻と瓜二つの悪魔の顔。 『僕は何度も忠告したよ、弓削さん。  だけど、全然聞き入れなかったよね…。  僕らからの教育的指導はかなりきつくなるけど、それは自業自得とも言えるよ?』  クスリと笑い、エレベーターに乗り込む。  お仕置きはもう、始まっていた。

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