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その頃、弓削は。
水上マテリアル本社の実験棟にいた。
焦燥も極まり足元が少しふらつく弓削を、璃音が社長室から引っ張って来たのだ。
「璃音さま、一体なんなんです?
私の予定を組み替えたり、かと思えばいきなりここへ…」
「ね、弓削さん。
僕は何度も言ったよね。
体に障る前に、一度家に帰って休んでって」
「だからそれは…」
「大事の前の小事だとでも?」
言い募る弓削の前で、璃音の表情が冷えていく。
普段は温和な璃音。
目元から柔らかさが引き、母と同じケモノの目へと変わる。
「…………っ」
「瑠維といつから肌を合わせてない?
仕事に手を抜けない時期だから、自分が頑張る時は瑠維も我慢をするのが当たり前だとか言わないよね?」
「……………っ!!」
低い声。
同じくして、気温も低くなっているように感じる。
図星を刺されて、余計に心拍数が上がっているような気がした。
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