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第14話

「コータ、良いことあった?」 「え?」 「久しぶり……違うか、初めてかも。そんなニヤけた顔」  例によって、ヨイチとケンカしたメイが子どもたちを連れてやってきた。 「別に、いつもと同じだよ」  コータは、慌てて表情を引き締めた。  ユウリがヤクマと番ではないかもしれない。  その事実は、コータの心を浮わつかせるのに十分だった。 「あのさ、メイはヨイチ以外に欲情することはない? 番以外との行為で勃起することはない?」 「え、何? コータ……ひょっとして僕に惚れた?」 「はぁ?」  コータの呆れ声をメイはフフンと鼻で笑った。  玩具を見つけた子どものように目がキラキラと輝き出す。  その様子を察知したのか、コータの膝の上にいた子どもがモゾモゾとメイの方に向かった。  ズリバイで這い進む我が子の髪を掻き上げながら、優しさの滲んだ声で言った。 「Ωは番以外とは絶対にないよ。吐き気がして具合が悪くなるから物理的に無理。αは、どうかな……時と場合によっては番以外と浮気できる人もいるかもしれない。ユウリと何かあった? 昨日、会いに行ったんでしょ?」 「ヤクマと番じゃなかった」 「ええっ? ホントに!? ……あの二人からは、ちゃんと番の気配を感じたよ」  メイは眉根を寄せて、同情の目を向けた。  言いにくそうに口を開く。 「怒らないで聞いてね。それって、単に、コータの願望じゃない? きっと、何かの間違いだよ」 「あの時、確かにユウリは勃起してた。Ωは番以外とは無理なんだろ? だったら、番じゃないってことだろ?」 「そうだけど……こんなに長いこと一緒にいて、あり得るのかな。どちらかが死ぬまで番は解消できないし……」  コータだって、信じられない。  あのパーティの夜、ユウリの首筋につけられた歯形もみた。  だが、昨日、ユウリは自分に欲情していた。  それは、間違いない。 「番えない事情……それって何だろう……思いつかないな。それでコータはどうするの?」 「もちろん、取り返す」  そこに着信音が響いた。ヨイチからだ。  電話の向こうは、ガヤガヤと騒々しく、声が聞き取りにくい。 「ヨイチ? どうした?」 『大変だ。ヤクマカンパニーが乗っ取られた』 「ええ? 非上場なのにどうやって」 『クーデターが起こった。今の筆頭株主はケイワイ社だ』 「ケイワイ社の筆頭株主は?」 『それは……』  ガチャリ   リビングのドアの開く音に振り返ると、メイともう一人の人影があった。 「えっ!」  ゴトリと、コータの手からスマホが滑り落ちた。電話の向こうから、ヨイチの声が響く。 『筆頭株主は……ユウリだ』  目の前の人物は、床に転がったスマホを拾った。 「そうだよ。ヤクマカンパニーの経営支配権は完全に掌握した」  驚愕の表情を浮かべるコータに、ユウリは艶やかに微笑んだ。

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