14 / 17
第14話
「コータ、良いことあった?」
「え?」
「久しぶり……違うか、初めてかも。そんなニヤけた顔」
例によって、ヨイチとケンカしたメイが子どもたちを連れてやってきた。
「別に、いつもと同じだよ」
コータは、慌てて表情を引き締めた。
ユウリがヤクマと番ではないかもしれない。
その事実は、コータの心を浮わつかせるのに十分だった。
「あのさ、メイはヨイチ以外に欲情することはない? 番以外との行為で勃起することはない?」
「え、何? コータ……ひょっとして僕に惚れた?」
「はぁ?」
コータの呆れ声をメイはフフンと鼻で笑った。
玩具を見つけた子どものように目がキラキラと輝き出す。
その様子を察知したのか、コータの膝の上にいた子どもがモゾモゾとメイの方に向かった。
ズリバイで這い進む我が子の髪を掻き上げながら、優しさの滲んだ声で言った。
「Ωは番以外とは絶対にないよ。吐き気がして具合が悪くなるから物理的に無理。αは、どうかな……時と場合によっては番以外と浮気できる人もいるかもしれない。ユウリと何かあった? 昨日、会いに行ったんでしょ?」
「ヤクマと番じゃなかった」
「ええっ? ホントに!? ……あの二人からは、ちゃんと番の気配を感じたよ」
メイは眉根を寄せて、同情の目を向けた。
言いにくそうに口を開く。
「怒らないで聞いてね。それって、単に、コータの願望じゃない? きっと、何かの間違いだよ」
「あの時、確かにユウリは勃起してた。Ωは番以外とは無理なんだろ? だったら、番じゃないってことだろ?」
「そうだけど……こんなに長いこと一緒にいて、あり得るのかな。どちらかが死ぬまで番は解消できないし……」
コータだって、信じられない。
あのパーティの夜、ユウリの首筋につけられた歯形もみた。
だが、昨日、ユウリは自分に欲情していた。
それは、間違いない。
「番えない事情……それって何だろう……思いつかないな。それでコータはどうするの?」
「もちろん、取り返す」
そこに着信音が響いた。ヨイチからだ。
電話の向こうは、ガヤガヤと騒々しく、声が聞き取りにくい。
「ヨイチ? どうした?」
『大変だ。ヤクマカンパニーが乗っ取られた』
「ええ? 非上場なのにどうやって」
『クーデターが起こった。今の筆頭株主はケイワイ社だ』
「ケイワイ社の筆頭株主は?」
『それは……』
ガチャリ
リビングのドアの開く音に振り返ると、メイともう一人の人影があった。
「えっ!」
ゴトリと、コータの手からスマホが滑り落ちた。電話の向こうから、ヨイチの声が響く。
『筆頭株主は……ユウリだ』
目の前の人物は、床に転がったスマホを拾った。
「そうだよ。ヤクマカンパニーの経営支配権は完全に掌握した」
驚愕の表情を浮かべるコータに、ユウリは艶やかに微笑んだ。
ともだちにシェアしよう!