6 / 8

5

 努力は報われ、ギリギリだったけれども、西第一高校には無事に合格した。あれだけ反対していた周りの人も、受かると手のひらを返したように褒めてくれた。  純自身、努力が嫌いだったし、流れるままに15年間を生きてきたから、自分がこんなに努力出来る人間であることを初めて知ったし、やれば人間なんでも出来るのだと驚いた。ここまで頑張れたのも、真咲に出会えたからであった。  それだけ、真咲との出会いは衝撃的で、人生を変えたと言っても過言ではなかった。 「部活動は放課後、学生館別館でしています。本日は新入生歓迎公演としてドラマリーディングを行うので、よかったら来てください」  真咲がぺこりと頭を下げて、ステージから降りていく。記憶は美化されるというが、ステージの上で堂々と話す彼は数か月前に見た姿と変わりなく、早く彼と話したい気持ちがさらに強くなった。  今の時間は午後三時過ぎ。この後ショートホームルームがあり、待ち望んだ時間がやってくる。今まで長い時間待ってきたのに、いざその時が近づと、たったの30分、1時間が途方もなく長く感じてしまうのはなぜだろうか。ソワソワと落ち着かない気持ちで残りの時間を過ごし、部活動紹介が終わると、はやる気持ちのまま、純はそそくさと体育館を後にした。 「純ちゃん!」  教室に戻り、ショートルームがはじまるまでの空き時間を机に突っ伏して過ごしていると、背後から名前を呼ばれた。少し高めのその声は嫌というほど聞いた声で、顔を上げなくても誰だか分かる。この声は無視をしてもいい人物のものだった。 「純ちゃーん! クールなのはいつもの事だけど、悲しくなるから無視はしないでよっていつも言ってるじゃん~!」  ぎゅっと後ろから抱きつかれて、温かい体温に包まれる。ふわりと微かに香る柔軟剤のにおいはやはりあいつのもので、純はわざと大きなため息をついた。    

ともだちにシェアしよう!