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君の園 待つ 2

 それだけで、このいい年したおっさんはそわそわと落ち着きをなくしてにじりにじりと離れていく。 「巽くん、近いよ」 「ああ、すみません」  人見知りで人付き合いの苦手なこの人は、パーソナルスペースに入られることをとても嫌う。  そこに踏み込んで、キスするのが好きだ。  とても困った顔は、見ていてそそる。 「やっぱり、幸成さんも行きませんか?」 「君の会社の花見だろ?余所者が行くのは気が引けるよ」  間近で話すと、そわそわと視線が泳ぐ。  困ってる  困ってる  親切そうに花見に誘う下心が、貴方のその顔が見たいだけ…なんてバレたら、裁断鋏で刺されそうだ。 「皆、気にしないと思うけど?酒が入っちゃえば、分からないよ」 「い、いや…こんなおじさんが交じっても…話も合わないし…」  おどおどとした目元は、笑うと柔らかな笑い皺を刻むのを知っている。  滅多に見れないけど。 「そか。残念、幸成さんと桜、見たかったな」 「まだ、仕事もあるし…すまない」  台に作られた小さな部品はもうかなりの数になる。  これでまだ完成にはほど遠いと言うのだから、職人なんて職種はよっぽど根気のある人じゃないとなれないんだろう。

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