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君の園 待つ 3

 オレには真似できない。 「まぁ、咲き始めたばっかりだし、また行きましょうね」  きっと、人混みを歩くのを嫌うから、夜桜見物になるだろう。  子供のようにぽかんと桜を見上げる姿を思うと口元が緩みそうになる。 「…うん」  こくりと頷く姿はあどけなくさえ見える。 「あ。えと…まだ、夜は冷えるって言ってたから、温かい格好で行った方がいいよ」 「分かった!それじゃ行ってきます」  ずいっと身を乗り出す。  幸成さんは反射的に身を引こうとするけれど…  捕まえていってきますのキスをした。 「…っ」  眉尻を下げ、赤い顔が困っている。  あぁもう!可愛い… 「晩御飯、チンして食べてくださいよ?お茶はあとお湯を注ぐだけにしてありますから」 「ぁ、うん。大丈夫」 「火傷しないでくださいね」 「大丈夫だって!!」  皮の厚い、武骨な手がオレの胸を押して、距離を取ろうと慌てふためく。  焦った顔も…いい。  そんなことを思いながら工房を後にした。

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