数年前の事だ 　ソレの存在がまことしやかに囁かれ始めたのは… 　最初は、都市伝説程度だった 　それが、ネットに写真が流れ始めた途端、爆発的に世界中でその存在が確認され始めた 　ネコ目ネコ科亜種やイヌ亜目イヌ科亜種などと呼ばれ、最終的に 　『亜種』 　そう総称して呼ばれるようになった 　『亜種』は、外見的特徴は人と酷似しているにも関わらず、末端、または一部において明らかに人間との差異の認められる生き物だった 　その生き物が実在すると世界が認めた時 　学者達はこぞってその生き物を分析し 　宗教家達は神の奇跡とも悪魔の所業とも騒ぎ立て 　識者はその生き物についての倫理を説いた 　マスコミは世界が望むがままに憶測や真偽不明の情報を垂れ流し 　政治家はその扱いをどうするかで連日話し合いをした 　そして、一般人はただ、それを新しい愛玩動物の一員として受け入れた 　彼らが『ヒトの亜種』と呼ばれない事には幾つか理由がある 　一つ目は外見的に見て明らかに人為らざる部位が認められる事 　二つ目は遺伝子的に見て、その生き物を形作る遺伝子が、その特徴を備えた科に酷く依存している事 　三つ目は…既に愛玩物として入手していた権力者達の擁護の為だった 　人の形をとりながら、柔らかな毛皮を纏う大きな耳や、ふさふさとした尻尾を持つ『亜種』は、純粋に可愛がられもしたが、同時に淫らな性の対象としても持て囃された 　故に、『ヒト』では困るのだ