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熱を含んだ指先が黒髪を撫で、無事を確認するように頬を滑り落ち、腕を掴んだ
「───?」
「…どこ……行ったのかと思った」
震えた唇から、掠れた呟きが漏れる
黒い耳をぴしっぴしっと動かすと、彼は足元に放り出した魚を家主の方へと差し出した
「…ぇっ!!」
月の光に粘膜を光らせ、ぐったりと事切れている魚を前にして家主はばたばたっと後退る
彼の黒くて長い尻尾が、大きく左右に振れた
「─っ───ぁ?」
「むむむむむむむむりっっ!!近づけんなっ!…っひ……や、それ……え!?…」
きょとんとして彼は尻尾を振り続ける
家主のその後退りの意味がわからず、獲ってきた獲物を差し出す
「いやいやいやいや、むりっ!ぃてっ!!」
ごつん…と頭が柱に当たり、そこでやっと後退りを諦めた家主の体に、彼はゆっくりとのし掛かった
口には、一匹の魚…
家主はそれを見て、また小さく悲鳴を上げる
魚は店で短冊になっているものしか馴染まない彼にとって、そのまま魚の形をとっている本物の魚は、未知の物体に他ならない
「いやっ…まぢっ……やめ…やめぇぇぇぇ……──────っ!!」
今夜の月のような、満月色の瞳を細めて笑う彼の口から、ぽとん…と魚が落とされた瞬間、静かな月夜に形容しがたい悲鳴が響き渡った
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