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「名前など何の役に立つのかね」
「は?」
「中身を、確認したまえ」
こつん、と要さんが持っていた愛用のステッキで床を叩くと、刑事さんは可哀想なくらい飛び上がって慌てて確認の作業を始める。
「あ…れ……これ、最後のbがdになってますね」
「なんだって?」
「これ、アドレス違います」
「そんな馬鹿な!!そんなところを弄った覚えなどないぞ!第一ちゃんとやり取り出来て…」
「本当に?」
かつては女性と思われても仕方のないほどの紅顔の美少年だったらしい要さんの、ぞっとするような笑みを見て主人がじりっと後ずさる。
「本当にそのやり取りがスムーズだったか、分かるのかね」
「え…」
「こう言ったものは、宛先が違えばエラーとして返ってくるものなのではないのかね」
「……」
こつん、とまた小さくステッキが鳴らされる。
「私が送ったメールは、いったいどこに届いたか考えてみたまえ」
要さんは少し左足が不自由で、こんな雨の降りそうな日はわずかに引きずる。
そんな足で要さんは大きな姿見の前まで行き、コンコンとステッキの頭で鏡を軽く打った。
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