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 あの手に掴まれば、掬い上げてくれそうだ。  一生に一度の恋だと思った。  睫毛に降り積もった雪が解けて目に滲む。  どうして?  なぜ?  掴んだ手を振り払った?  銅像の横顔に問いかけた所で返事が返るわけがないのは、酔った頭でも十分に分かる。  ただ裂けそうな胸の内を吐露したくて、昔は高い と思っていた銅像の顔を覗き込んだ。  精悍そうな顔付き。  男丈夫なその顎のラインは意思の強さを示しているようで…  その視線の先には誰かを見据えているのかもしれない。  手を伸ばすその先にいる人を見てみたくて首を巡らせはしたけれど、先にあるのは海へと続く闇ばかりだ。  波音が聞こえるかと耳を澄ますも、そんなはずもなく…  落胆と空虚さのまま銅像へと向き直った。  年月を経て、子供達が良く触れる所は驚くほど艶を持っているが、それ以外の部分は砂埃に燻り全体の輪郭がぼやけて見える。  表面を伝い落ちる雪を指先で払い、マフラーを外してそれで銅像の顔 を拭いてみた。 「ちょっとは…ましか…」  実際に汚れはマフラーで拭ったぐらいではどうしようもなかったし、後から後から降る雪であっと言う間に銅像は濡れてしまう。 「へへ  いい男になったよ」  銅像になってこれほど男前なのだから、モデルとなった人物は大層な色男に違いない。  再び雪が積もってしまった鼻梁に指先で触れた。  凛々しい目元を親指で拭って、微笑んでいるのだろうか?微かに口角の上がったように見える唇を撫ぜた。  冷たい感触の筈なのに、硬さではなくぬくもりを感じた気がした。  男らしくきりっとした眉毛は、どこか友人を思い出させるもので…  この期に及んで恋人ではなく友人を思い出す自分に小さく笑う。  伸ばされた手にそっと掌を添わせると、何故かそのまま握り返してくれるんじゃないかと期待してしまうほどしっくりと馴染む。

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