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彼は何を見ているんだろう?
伸ばした手の先の……?
蹲る銅像の懐に滑り込んで、ひやりと冷たい体に身を寄せた。
白い息がブロンズの肌にぶつかって跳ね返る。
自分の息がこの像の肌を曇らせたのだと思うと、小さな昂揚感が芽生えたような気がした。
ふぅっと吹いて肌の上の雪を解かす。
絶え間なく降る雪はオレの体にも降っていて、体温は下がってはいるけれど、それでも雪を解かす程度には温かいらしい。
真っ直ぐ揺るがない視線の彼ならば、オレの手を握ったまま離さないでいてくれるだろうか?
腕に頭を預けると、キン…と冷えた金属の感触。
「なぁ 誰に手を伸ばしてるんだ?」
相手の手を掴んでいるのか、
相手に促されているのか
覗き込めば動かない視線がオレを射抜いた。
揺るがない、
オレだけを見る瞳、
腕から頭を擡げると、ずっと触れていた耳朶が一瞬焼けたのではないかと錯覚するような痛みが走ったが、それにはオレの頭を冷ます効果はなかったようだ。
「 オレを見てて 」
返事なんて返らないことは知っている。
けれど、動かない視線で十分だった。
「 離れないで傍にいて 」
涙が伝うのを感じながら、軽く首を傾げて目を閉じる。
そっと触れたその唇は、硬く冷たく、そして滑らかで熱かった。
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