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改めて銅像を見てみると、よくこんな所に入り込めたものだと思うくらい、彼の懐は狭い。
子供の頃の、体の小さかった時なら余裕で入れたのだろうけれど…
「………」
相変わらず、彼の視線は海の方を向いている。
今日は風が強いせいか微かに潮の香りがここまで運ばれているようだった。
「その節はお世話になりました」
…と、言ったところで相手は銅像で、返事がないのはよく分かっている。
分かってても言ってしまうのは、男らしい横顔が意外とオレ好みだったからだ。
あの日のように、マフラーを外してごしごしとその顔を拭く。
「 なぁにやってんの?」
暢気そうで、でもちょっと警戒を含んだ声音だ。
こいつは未だに、オレが馬鹿な事をするんじゃないかって思っている節がある。
「お礼に綺麗にしてるの」
「えー?」
「オレ、この銅像に助けられたんだろ?」
「まぁな」
寒そうに首を竦めながらオレの傍に立つと、昔みたいにその伸ばした手にぶら下がろうとした。
「ちょ…っ何やってんの!」
「いや、ぶら下がれるかなーって」
「無理無理!足ついてるし」
だな!と笑って諦めて、ふと真剣な顔でオレの拭いた銅像の顔に視線をやって押し黙ってしまった。
どうした?と声をかけるよりも先に、ぎゅっと握られた手に気を取られて、友人の男らしい横顔を見上げる。
「あの、さ」
手袋も していないのに、その手は熱い 。
「俺、泣かさないよ」
一言言う度に強まる力が緊張を伝える。
何言ってんだと茶化そうとしたオレの言葉を押しとどめたのは、銅像を見ていると思っていた視線がまっすぐオレに向いているのに気が付いた時だった。
「……うん」
「よそ見、しないし」
なんたって、20年近くお前しか見てないんだから…と続いた言葉に、息が止まりそうだった。
「俺が、恋愛対象に入らないのは分かってるんだけどさ。それだけは覚えてて」
「………ん」
はっきりとした返事ではなかったのに、オレを見下ろす目は満足そうに微笑んでいた。
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