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「田城玄上」と作者名の書かれた上にプリントされた絵は、本当に描かれた物なのかと疑うくらい緻密だ 。
なのに写真にはない空気感が、ただの精密画でないと物語っていた。
「若くして、夭折…」
残された作品数の数で言えばそう多くない彼の作品が有名なのは、溢れんばかりの才能が有りながら年若く亡くなったせいもあるのだろう。
彫刻専攻のオレには画家は馴染がないせいか知らなかっただけのようだ…
指先で、今にも水が溢れそうなグラスを部分を撫でた。
卒業制作に追われながらも、ずっとあの銅像の事が頭を離れなかったオレは、調べに調べてなんとかあの銅像のモデルを探し当てた。
作品集には大まかな経歴程度しか書かれてはおらず、彼がどう言った人物だったのかは書かれていない。
薄い作品集からは彼の姿が見えてこず…
目を閉じて脳裏 に浮かべたその姿は蹲り手を伸ばしている姿だけだった。
朦朧とした意識の中で触れた唇の熱さに考えが至って頬が赤くなるのが自分で分かった。
シャープで直線的な横顔を思い出して、唇を引き結んで俯いた。
キュプロスの王ではあるまいし、オレは何に顔を赤らめているのか…
けれど、あの手の先にいる相手が自分だったらと、ふとした瞬間に思いそうになる。
馬鹿馬鹿しい…と笑い飛ばせないから、あんな酷い男に掴まっても気づかないんだろう。
作品集を図書館の棚に戻し、財布しか入ってないせいか重さのない鞄を担ぎ直して絵画棟へと足を運ぶ。
あいつに付き合ってよく出入りしているために、彫刻コースだと言うのに洋画コースの知人は多い。
オレの 顔を見ると、聞く前にあいつの居場所を教えてくれるのはなかなかに便利だ。
「――――よぅ」
さすがに入る事は躊躇われて、アトリエの入り口から声を掛けた。
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