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 キャンバスに向かっていた背中が動き、オレの方を振り返る。 「帰る?」  にっこりとした上機嫌さは、作業が順調にいっている証なんだろう。  オレも卒業制作を抱える身としては、乗っている時に邪魔したくない。 「いや、待ってる」  そう言うと更に一段階、笑みを深くしてから視線はキャンバスへと戻って行った。  待っている…と言った手前、視界に入って気が散る原因になるのも躊躇われて背中の方へと回り込む。 「…………これ」 「えー?」  一応返事はしてくれるが、単に条件反射的な返事だろう。  筆が、さらりと表面を撫でる。  それだけで、果物を覆う滴が現れる。  緻密な、静物画。 「………田城…玄上のみてぇ」  先ほどの作品集を見てからだと、尚更そう思ってしまう。 「えぇ?」  先ほどと音は変わったけれど、反射的な感じは拭えない。  オレの声を気にする風でもなく、さらさらと筆を動かしていく。 「―――――似てる?」 「え!?」  声を掛けられたのはそれからだいぶ経ってからで、携帯を弄っていたオレには何のことだかわからなかった。 「田城玄上のと」 「知ってるのか?」 「そりゃ、まぁ」  意味ありげに、男らしい唇が笑みを作る。  キャンバスに向かったままの横顔が、ふとどこかで見た光景と重なった気がした。

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