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「おや?お出かけかい?」  行っておいで…と声を掛けながら、マスターは少し不自由らしい片足を引きずりながら猫を送り出した。  マスターがテーブル客に珈琲とチーズケーキを出すのを見計らってから、彼はそろりと切り出す。 「…あの、猫がいることを、何か言われませんか?」 「ええ、幸い、うちにいらっしゃるお客様はノアに釣られていらっしゃる方が殆どなのでそう言ったことは」 「そう、ですか」  彼の返し方は、飲食店に動物はご法度…と言う考え方をちらりと滲ませる。 「猫、苦手ですか?」 「苦手と言うか…接する機会がなくて」  母の代わりに育ててくれた祖母が昔、猫に引っ掻かれて以来苦手になったせいで飼う事も触れ合う機会もなかったと話す。 「職業柄、やはり動物とは縁遠くて…」 「お医者様です?」 「え!?」 「そんな雰囲気なので。当たりました?」 「あ…はい」  言い当てられたことに過剰反応したのが恥ずかしかったのか、彼は俯かせた顔をやや赤らめた。 「もしよろしければどうぞ。味見してみてください」  コトン…と出されたのは先ほど気になったケーキだ。  何の変哲もないベイクドチーズケーキ。 「うちの看板ケーキなんですよ」 「ありがとう…ございます」  三角形の先端をフォークで切り取り口に運ぶ。  ほろりと崩れるくせに滑らかで…しっかりとチーズの風味がするのに重さは感じない。 「…美味い」 「ありがとうございます、胃に少し物を入れられた方が良さげでしたから」 「あー…あはは」  マスターの言う通り、胃が空っぽだった彼は小さく笑ってもう一口ケーキを口に入れた。

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