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「あの…」 「あのお二人、仲睦まじいですね」 「仲…睦まじい…って……」  思わず振り返ろうとしたのを、マスターに目で止められて寸でで堪えると、彼は落ち着く為に一口珈琲を飲んだ。  ほろ苦さが、神経を揺さぶる。 「そん…だって、……」  言葉が出ず、代わりにジワリと目縁が痺れた。 「いつも待ち合わせに、使っていただいているんですよ」  嬉しそうに言い、珈琲とチーズケーキを乗せた盆を持ってマスターはテーブル席へと歩いて行く。  ―――どうして?  チーズケーキに喜ぶ声が背中にかかる。  絵を見るふりをしてテーブル席を振り返った。  その雰囲気だけで、分かる。  飴色のテーブルの上に置かれた手は、指先が微かに触れ合っていて… 「――――っ」  どうして?  再びその言葉が喉元までせり上がる。 「どうかされましたか?」  マスターの声に引き戻されたのか、彼ははっとなると曖昧に微笑んで首を振った。 「いえ」  固く握られた手は白く、小さく震えているかのようでもある。

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