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「ん…タバコ臭い…」  心底嫌そうな顔。  軽蔑すら滲ませてるようなその顔なのに、はり倒したくて仕方のないその澄ました顔なのに…オレは反論せずに小さく口の中でごちるしかない。 「…わりぃかよ……」 「タバコは好かない」  そう簡潔に嫌いだと返すも、あいつの舌がオレの舌から離れることはない。  ぴちゃ…  ぴちゃ…  オレの差し出した舌を堪能したあいつは、憎たらしい程勿体つけてオレの口を塞ぎに来る。  舐められて力の入らなくなった舌ごと吸い上げられ、その感覚にくらりと目が回る思いがした。 「ん…」  タバコは好かないと言いつつも、その臭いが染みついたオレの口内を犯す動きに躊躇はない、舌を吸われ、上顎を先を尖らした舌が丹念に余すところなくくすぐっていく。  軽く下唇に歯を立てられた時、思わず体が震えた。 「…ぁ…は……」 「ここ、弱いよね」  そう言いながらなぞられたのは舌裏。  じゅる…とどちらからともなく溢れかけた唾液を飲み下す、間に合わなかった分が喉を通り過ぎて伝い落ちて行き、オレの赤いシャツの襟もとを濡らした。 「はぁ…ん…」  唾液が皮膚の上を流れる感触にすら感じて息を荒げるオレを、余裕の顔のあいつが見下ろす。 「そんなに、溜まってるの?」 「うる…せ…」  あいつが手の甲で口の端の垂れた涎を拭う。  それを舐めたかったな…って思っていると、ジャケットを脱いであいつがマットの上へと登ってきた。 「あんなの、いつもならスルーするんじゃないのか?」 「…そんなこと…ねぇよ」  あのカツアゲしていた…いや、正確にはカツアゲなんて呼べるような立派なもんでもなかったが……目についたのは確かだった。 「そう?俺を呼び出したかったんじゃないのか?」  ノンフレームの眼鏡も外し、汚れないように引っ掻けたジャケットのポケットへと入れようとするその動作が待ちきれなくて、オレはさっさとその手から眼鏡をむしり取った。 「あ。指紋つけるなよ」  そんなこと知らねぇ。  むしろわざとレンズを触ってからポケットへと投げ込んだ。 「せっかちだな」 「…この後、用事があるんだよ」 「じゃあ、また今度にすれば?」 「…………」  そんな事できないと知っていてこいつはそう言うんだから始末に悪い。  さっきのキスだけで…オレは前屈みにならないと厳しい状況だ。 「どうした?」 「ぅ…せぇよ…」  への字に曲げたオレの口に、またあいつがキスしてきて流された。 「まぁ、また生徒が犠牲になっても…可哀想だしな」  こいつの顔は、絶対そんな事を思っている顔じゃない。

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