114 / 205
.
共に職を担うようになり、苦しい時も二人で知恵を出し合い、助け合いながらこなしてきていた。
いつも笑顔の『小竹祝』
傍らにいてくれるだけで心が明るくなった。
彼が微笑んでくれるだけで、幸せになれた。
微かに触れ合う体温に、胸がときめいた。
その気持ちが恋だと気付くのに時間はかからず…、オレはその微笑みを向ける『小竹祝』をそう言う対象として見るようになってしまっていた。
神官職とは言え、男女の色恋沙汰を知らないわけではない。
いや、正確には、その感情を同性に向けてはいけない事を知っていた。
禁忌だと、
………オレは、知っていたんだ。
「桜、今年も見事だね!」
儚く舞い散るその花びらの中を、『小竹祝』は駆けて行く。
裾に泥が跳ねるからと、散々上職のじい様に小言を言われていたのに、まったく堪えてないのも彼らしかった。
「止まれ!転ぶぞ?」
そう声を掛けると、『小竹祝』はくるりとこちらを振り返りながらしゃがみ込んでしまった。
「?」
地面に蹲る『小竹祝』が胸を押さえているように見えて駆け寄る。
「どうした?」
「走りすぎて、胸が苦しくなっちゃって」
笑う彼の顔色が青白く思えた。
桜の花のように華やかに笑う彼が、倒れたのはそれからすぐのことで…
今なら分かる。
もしかしたら、心臓が悪かったんじゃなかろうか…と。
けれどあんな昔のことだ、病気は悪霊が起こすものと考えてられていた時代に『小竹祝』の延命など望むべくもなく…
部屋で蹲る『小竹祝』に駆け寄った時にはもう虫の息だった。
蒼白と言う言葉がそのままぴたりとあてはまる顔色で、荒い息を吐きながら彼はオレの腕の中で息絶えた。
抱き締めた体の重みも、引っ掻かれた腕の痛みも覚えている。
人工呼吸など知らなかった。
心臓マッサージなど、できるはずもない。
腕の中で苦しみながら悶え息絶える彼を抱き締め、なす術なくただひたすらに神へ祈りを捧げていた。
居もしない神に、オレは祈っていたんだ…
ともだちにシェアしよう!