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「神なんて…いないよ」  藪から棒に呟いたオレの言葉に、津田が「は?」と返してくる。 「あーいや。余りの実力テストの出来に…な」 「ああ、岡田もか」 「津田もか」  互いの答案を見せ合い、苦笑いと盛大な溜息を吐く。  お互い小さな数が羅列するそれを丸めてゴミ箱へと投げ入れた。 「過去過去!過ぎ去ったもんに気を取られるな!」 「だな!そーだな!よし!どこ行こう!」 「科学室に決まってるだろ」  会話に割り込んできた言葉に、津田ともども口を閉ざす。 「前を向いてくれないかな?ホームルームを始めたいんだが」  生徒に紛れてしまいそうな眼鏡をかけた童顔が、怒りを含ませた表情でこちらを見ている。  精一杯言葉遣いを変え、威厳を出そうとしているが、逆にそれが日野の童顔を目立たせていることに本人は気付いているのかいないのか… 「科学室って…日野ちゃん……それって…」 「補習!せめて担任の教科くらい真面目にやってくれよ…」  しょんぼりと肩を落とすと更に子供っぽく見える。  そんな所も、変わらないんだな…と胸中で思いながら前を向いてホームルームを受ける態勢を整えた。  入学式の式典を終え、ばらばらと帰る生徒達の合間を縫って駆ける。  こちらの方に歩いて行った筈だった。  まだ蕾を湛えた桜の枝に頬を叩かれながら、新校舎と紹介を受けた校舎の裏口へと回る。 「どこだ…」  慣れない校内で方向感覚も分からなくなって…  明日からの学校生活で幾らでも顔を合わせるチャンスがある筈なのに、やっと会えた気持ちでオレはただ突き進むしかできなかった。  何年待った?  再び彼に会えるのを…  何年待った?  その笑顔を…  腕の中で死なせてしまった彼の傍にもう一度寄り添える日を…  オレは、ずっと待っていた。 「あっ」  蹲る人影に、体の中がひやりと凍った。 「……っぁ……」  なんと呼びかけていいかわからず、開きかけた口を閉ざして駆け寄る。 「あ…の……」 「え?」  きょとん…とした表情でこちらを見上げた日野の手には、誰かが捨てたらしいジュースのパックが握られていて…… 「新入生だよね?どうしたの?」 「あ、えと…」  答える言葉を持ってないオレは、首を横に小さく振った。  『小竹祝』と呼びかけた所で、彼はそれを覚えていないだろう。  1800年も前の事、ましてこの現代に生まれ変わる前の事を覚えているかと尋ねても、頭がおかしいと思われてそれでおしまいだ。 「その…道に、迷って…」 「そう、僕もいまいちよくわかってないけど、たぶん校門は向こうだよ」  にこにことした笑顔に、胸が苦しくなる。  柔らかな笑顔は、変わってはいない。  新任とは言え教師とは思えない言葉に苦笑しながら、小さく唇を噛み締めた。  冷たく横たわる姿が、彼を見た最後。  もう動くことのないその姿が、再び目の前で微笑みかけてくれることに……オレは、思わず泣き出してしまった。

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