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『日野と久米が付き合っているらしい』
そんな噂を聞いた。
教師とは言え男女なのだからそう言った関係になってもおかしくはない。生徒にバレないようにするのがモラルだとも思うが、話す雰囲気で気付く奴は気付くのだ。
「……え?この後ですか?」
幸せそうな久米の笑顔を見るに、デートの誘いか何かだろう。
久米のきらきらとした…と形容できる目がオレの方をちらりと見る。
「あー…でも、今補習中で…」
すとんと肩の落とされた背中は残念さを表しているのか…
なんにせよ、オレの補習の為に二人の邪魔をしているのは確かだった。
囃し立てること一つできず、似合いの二人を盗み見る。
男女ならば何の問題もなくそうやって傍らに立てる。
久米が羨ましいと思い、男である自分の身を呪う。
二分の一の確率ならばどちらかを女にしてくれても良かったはずだ。
何故こうも神と言う奴は無慈悲と言うか、気が利かないと言うか…
いや、そもそも性別なんてものは遺伝子の采配に因るものだから、神の領分ではないのか?
性格や性趣向もある程度生まれが関わってくると言うならば、オレが彼を愛してしまった事は神の御意思だっだと捉えるのは拡大解釈か?
「そうですね、じゃあ…」
ぼんやりとしていた頭に話を切り上げる声が届く。
ああ、話がまとまったのか…じゃあ、机の上に転がした鉛筆を回収しないといけないと思ってそれに手を伸ばした。
プリントの上の化学記号の配列が見える。
人が塩基の配列で説明でき、日食が惑星の配列で説明できるなら、その他の神の領域も何かの配列で説明できるのかもしれない。
取り留めなく考えながらプリントを片付けようとした時、傍らに日野が座った。
「何片付けてるんだ?まだ終わってないぞ?」
「へ?」
「ほら、筆記具を出して」
「いや、だって……久米は?」
「久米先生は?だろ」
窘められながら、日野が何故補習を続けようとするのかをぼんやりと考える。
一番嬉しい…と言うか、希望するのはオレと一緒にいたいから……だが、まずないので他の理由を考える。
別れたがっているが久米に付きまとわれている。
いいぞ…と悪魔の羽を生やしたオレが囁くが、いやいやと首を振る。
日野の性格から行くと、振られることはあっても振る事はない。…と考えると、普通に教員としての責務を恋愛より優先させた…と言う辺りが無難だろう。
まぁ、それが可能性としては一番だろう。
はぁ…と吐く息が重くなる。
そしてひとつ決意をする。
馬に蹴られようがゴジラに踏みつぶされようが、オレは科学で赤点を取り続けるぞ!…と。
「なんか…誘われてたんじゃねぇのかよ」
「お前を放っておいて行ける訳ないだろ?」
どきりとする。
それは、オレといたいと言う事か?
「この壊滅的な点数を何とかしないと…おちおち誘いにも乗れないよ」
「あ…ああ、そうだな」
誘いに乗る…か。
まぁ…日野だって健全な成人男子なんだから、誘いが嫌ってことはないだろう。
久米は美人だしな。
嫌がる男はいないだろう…
いや、それ以前に、付き合ってるのだとしたらどこまでヤったんだろう…
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