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 北へ上る途中は、だらだらと田舎道が続く。  ふとした会話の途切れに、オレは携帯電話の画面を覗くふりして日野を盗み見た。  なだらかな曲線、薄めの眼鏡、童顔は相変わらずで、どんな時でもその柔和さからかいつも微笑んでいるように見える。  ああ、好きだなぁ…  昔から変わる事のなかった想いに、今更ながらに自分自身で呆れた。  何が好きとか、どこが好きとかではなく…日野の事が好きだった。  強いて挙げるなら、その纏う空気が愛おしかった。  傍らに、こうしているだけでほっとできる雰囲気がある。  それが好きだ。 「彼女?」 「え!?」 「ほったらかしにして、怒られてるんじゃないのか?」  携帯電話を見すぎていたのか、日野の言葉にオレは飛び上がった。  画面には少し前に登録した携帯ゲームが映っていたが、特に理由があって見ていた訳ではない。 「彼女なんかいねぇよ」 「ええ?岡田はもてるでしょ?」  ハンドルを操作しながら返してくる日野の姿は、どこか普段の雰囲気から離れていて、子どもっぽい雰囲気の代わりに大人の空気を纏っているように思える。 「もてねぇよ」  不貞腐れたつもりはなかったが、そんな声になった。  オレが好きなのは…あんただ。  不貞腐れた声のまま言ってやろうかと思ったが、するりと出そうになった言葉を飲み込んで「日野ちゃんはどうなの?」と返した。 「俺?俺はもてないよ。…童顔のせいかな」  そんな筈なかった。  話を合わせただけなんだろうなぁ…とぼんやりと考えながら、乱暴に携帯電話を閉じた。 「久米は?」 「え?なんでそこで久米先生なんだ?」  はは…と笑う。  久米でなくてもいい。  女生徒からも、日野は人気があるのを知っている。  若くて、甘いルックスに、柔らかな物腰…  もてるだろうな… 「もしかして、今日、彼女と約束があったの?」 「なんでそうなるんだよ」 「乱暴に携帯閉じてたから…もしかして、機嫌損ねちゃったんじゃないのかなって」 「だから。彼女なんかいないって」  オレに彼女がいると思い込んでいる日野に腹が立って唇を尖らせる。  彼女がいた事がなかったわけじゃないが、絶賛片思い中の今のオレにいる筈なんてなかった。 「…いないんだ」  意外そうな、残念そうな…? 「好きな奴なら…いるけど…」  ちら…とこちらに寄越された視線と目が合いそうになって慌てて俯いて携帯電話を開いた。 「片思い?」  片思い…なのか?    1800年前からの?  随分と、根性の入った片思いだ。 「まぁ…そうかな」  世の中が、性の垣根に寛大になって来ている事を知っている。  男同士の恋愛が、1800年前よりも認められている事も。  告げてしまおうか…とも、ふと思う。  『天野祝』が最期まで告げる事の出来なかった言葉を、オレが告げようか?  今現在の性の在り方の多様さは、すでに神の諦めすら得ているように思える。  同性愛で太陽が隠れ、地上が闇に覆われるのだとしたら、今の世の中常に真っ暗になっていなくてはならない。 「そっかぁ…青春してるんだな。告白は?しないの?」  シたい。  違う。  したい。  告りたい。  日野に抱いているのが性欲ではない!…とは言い切る事はしない。  オレだって健全な高校生なんだから、好きな奴が傍にいたら触れたい。  でも、それ以上に日野に好意を向けられたい。  最初は、出会えた、ただそれだけで良かったのに、いつの間にか話をしたいと思うようになった。それはいつしか他の生徒より特別に見て欲しいと言う欲に代わり…  傍らに、居たいと思う。

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