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水面を漂う、濃い紅の花びら。
雨で散り、誰にも気づかれないままに海へと運ばれて当然のそれを愛でる。
散ってしまった花に、誰が気を留めるのか…
咲き誇り、匂いを満ちさせてこそ人の気を惹けるそれを、落ちてなお花と言えるお人よしさに、笑いが零れる。
「そうしといてやるよ」
笑い混じりに言ってやると、拗ねたような表情が伺えた。
からかっているんじゃない。
小さなことに幸せを見つけられる日野に愛おしさを感じたのだと、告げたかった。
「綺麗な、色だな…」
「うん」
二人、手を繋ぎながら見る風景の、川の汚れにも染まらずに凛と浮かぶ紅は、昔見た物よりも美しく思う。
咲き誇っていなくても桜は桜…
覚えていなくても、『小竹祝』は『小竹祝』…
告げる事が出来なくても、想いは…想い、だ……
告げなくても、この想いは罪なのか?
淡い恋心は罪なのか?
憧れと、恋の境目は?
触れてしまうと罪なのか?
天地を闇に閉ざすほどの罪は、何処からなのか…?
「昨日は、ありがとうな」
廊下で呼び止められ、そう昨日の礼を言われた。
本来なら礼を言うのは俺のはずだ。
「オレも楽しかったし、サンキュ!」
「ご褒美も上げたし、中間は頑張れよ」
たらりと汗を垂らしてやると、日野の眉間に皺が寄った。
「お前なぁ、実はやればできるんだろ?」
「で…できないよ」
30分で補習のプリントをやり終えてしまった事を言われて言葉がしどろもどろになった。
あれは下心があったからこそで、常にあんな状態じゃない。
「俺になんか嫌がらせしてるだけじゃないのか?」
「ち、違う!あれは、ご褒美があったから…」
両手を振って否定するオレを、片眉を上げて見やりながら、日野は少しの沈黙の後にはぁ…と息を吐いた。
「…今度、赤じゃなかったら、またなんか奢ってやるから」
周りを気にしながら、ぼそりと早口に告げられて思わずぽかん…としてしまった。
「わかったか?」
「えっ!あ、うん!」
え?
教師がそんなことしていいの?
普通…しないよな?
「ばれたら…怒られるから、内緒だぞ?」
ほら、まずいんじゃないか。
「い…いいのか?」
「いいわけないだろ。まったく」
童顔を拗ねさせ、日野はぷいっと歩き出した。
その去り方は、1800年前と変わらない照れ隠しの仕方で……正直オレは混乱した。
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