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「岡っち?おーい、岡っち?」
「うるさい。ほっとけ」
声を掛けてくる津田を一蹴し、頭を抱え込んで机に俯せる。
どう言う事だ?
日野のあの態度は……
…あ、出来の悪い生徒を何とかしたいだけか。
いやいや、でも、それにしちゃ…やりすぎじゃないか?
やりすぎって言うか…あれは、好意?……なのか?
好意?好意か!?好意ってなんだ?
え?オレ、もしかして…好かれてる?
いやいや、日野の性格を考えると、勘違いかもしれない。
むやみやたらに好意を振りまくのは悪い癖だと、常々思っているところだ。
人当たりがいいと、お人よしだと言うのは悪い事じゃないが、その気もないのに寄ってくる奴に愛想を振りまき続ければ勘違いする奴も出てくるに違いない。
オレみたいに。
あー…
これか。
…やっぱ、オレの勘違い?
「岡田っ!」
「うわぁっ!!」
オレの悩みのタネに名前を呼ばれて飛び上がる。
「せめて挨拶の時ぐらいは顔上げろよ…」
「あ、あ…わりぃ…」
唇をへの字に曲げて、怒っている。
その日野の唇に…触りたい。
「じゃあ、HR始めるからな」
ふぃ…と背を向けられ、拒絶されたような気になって項垂れる。
くそう…
何ができるでも、何をするでもない。
ただ傍に居たくて放課後の科学室の扉を開けた。
「日野ちゃん」
開けながら声を掛けたが、同時に「あ」と小さな女の声が上がった。
教室の真ん中に並んで立つ二人のシルエットにどきりとした。
「あ、あの、それじゃあ私はこれで失礼しますね」
細くて、胸があって…日野の隣に立っても何の可笑しさもない久米が、赤い頬を押さえながらパタパタ…と隣を駆け抜けて行く。
イイ…匂いだなぁ…
そう感じると自然と目が後を追う。
『岡田将晴』は別に男が好きじゃない。
女の体の柔らかさも知っているし、女のナカの気持ち良さも知っている。
そんなオレの感情が、久米はイイ女だと告げる。
「ごめん、日野ちゃん、邪魔しちゃったね」
女の良さを知っている。
けれど別格なのだ。
日野と言う人物については。
「…いや、別に……」
久米の後を追いかけていた視線を、科学室の日野に戻すとこちらに背を向けるところだった。
気まずい雰囲気に、オレが扉を開ける直前まで甘い会話をしていたのだろうなと言う事が容易に想像ができた。
ホントに…邪魔しちゃったんだな、と思うと情けなさとほっとした気分とイラつきとがない交ぜになった気分になる。
「すねんなよ」
「すねてなんかない。何か用なのか?」
突き放された言い方は、よっぽど機嫌を損ねてしまった証拠だろう。
正直…むっとした…
傍でお前に恋焦がれて、半端ないくらいの片思いをして、生まれ変わっても思い続けている人間がいると言うのに…
ぽっと出の小娘…じゃなかった、久米なんかに掻っ攫われる人間の気持ちが、お前にわかるのか!?
好きで…好きで…いや、好きなんて言う感情なのかよくわからない、愛しいとか…愛していると言う言葉の方がしっくりくるその想いを、遥か過去から因業に絡め捕られながらも抱え続けていた想いを…
どうにもできなくて…
「別に…なんもないよ」
オレの想いは、罪だと言われた。
禁忌だと…
行ってはならない事だと…
1800年前に存在していたらしい神とやらに。
「用がないなら、帰りなさい」
「………」
そして今は、本人に否定されている。
久米との密会を邪魔したオレに憤りを感じるその姿が紛れもない真実だ。
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