130 / 205

.

「日野ちゃん」 「だから、どうしたんだよ?さっきから」  ふう、と息を吐き、天空の金環を見た。  綺麗…だ、  そう、金の輪っかだ。  最高の天体ショーだ。  芸能人もやってた通り、非日常な今は感情が高ぶって、告白とかには最高じゃねぇか?  うん。  そうだ。  そう思うと、今までぐだぐだしてたのが馬鹿らしくなってした。 「好きだ」  飛び上がった日野の顔の、目も口も丸くなっていく。  ぱくぱくとしか動かないそれは、金魚にそっくりだ。  よし、帰りに金魚買いに行って、『マイト』ってつけて可愛がろう。  そうすりゃ、ちょっとは慰めになるだろ?  ぽかんとした顔、可愛いなぁ…  こんな事言い出す奴なんか、傍にもおいてもらえないんだろうな。  太陽が出なくても何とかなりそうだけど、日野に嫌われたらオレ死んじゃうかも… 「………うん…」  ほら、拒否られた。  金魚を買う時に一緒に首吊り用の縄を…… 「へ?」  うん?  うんってなんだ? 「……あり…がと」  ありがと?  え?お礼?  あ、『でもごめんね』って続くのか?  ああ、やっぱ死にたい… 「………その…嬉しい」  嬉しい?  オレが死ぬのがか?  あ、違う。  え!?違う!! 「ええっ!?」 「何驚いて…あっ…もしかしてなんかの罰ゲームだったのか!?」 「いやいやいやいやいや!違うっ…ちが………う………オレ、本気だから…」  闇に落ちた世界でも日野が顔を赤らめたのがわかった。  俯く日野が、言葉を絞り出す。 「…そか……よかった…」  罰ゲームとか…むしろオレが聞きたい。  嬉しいって、それってOKってことだろ?  手を伸ばして、そっと頬に触れてみる。  手が拒絶されないのは、夢じゃない。 「俺も…」  ごにょごにょと、かき消されるような「好きだったんだ」の言葉に、じんわりと現実味が染み込む。  嬉しくて嬉しくて、幸せで…ぎゅっと詰まった胸の苦しさを教えるように頬に置いた手でその小さな顔を包み込んだ。 「あ…」  光が差さないせいで、黒っぽく見える手。  悪寒が、走る。  月の影に覆われている世界をとっさに見渡し、震えが全身を襲った。  このままなのかと。  太陽が隠れている時間が長すぎやしないか…と。  天を仰ぎ、息を詰めたオレの襟を日野が引っ張る。 「岡田」  冷静な、教師の声。  腕時計を見て、オレに微笑んでくれた。

ともだちにシェアしよう!