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ぐりぐりと赤ペンの尻でこめかみを押してみるけれど、一向に頭痛は良くならない。
むしろ悪化?
「あー…うー…」
唸ってみても、頭痛は良くならなかった。
そりゃそうだ。
理由ははっきりしている。
ひっくり返してみても、横を向けても、裏返しても、その数字が二桁に増える事はなかった。
「お…おぉーーーーかぁーーーーだーーーーっ」
低く唸ったオレの声を聴いて、隣の席の久米先生がびくんと飛び跳ねたのが分かった。
『岡田 将晴オカダ マサハル』…と、お世辞にも綺麗とは言えない文字で書かれた名前に、それでもオレはどきりとする。
それが今の彼の名前…
名前なのだが、名前は良かった。
だけれども、この成績はいただけない。
もういっそ、名前を書かずに0点にしちゃえよ…と説得しそうになるその数字は……どうしたらいい?
仮にもオレが担任で…てことは、科学教師を担任に持つのだから、そのテストくらいは真面目にやって欲しい。
もう一人の津田ともども、居残りだな。
そう考えて、ちょっと嬉しく…なっちゃいけないんだろうけど…
何の奇跡か、担任になれたのはいいけど…はっきり言ってしまうと、担任と生徒とは言えそれ以外に接点なんてあるわけでもないし…
こう言う機会はホントに貴重!
…津田、来なければいいのに……
あ、また薄情?
二人分の補習プリントを用意して科学室の窓辺に座る。
校門を出てゆく生徒達を見ながら、1800年前と随分と変わったと…当然のことをしみじみと考えていた。
オレと『天野祝』と…
どうやって過ごしたかな…
幼馴染で、共に神職を担うために忙しかった。
彼の事が気になりだしたのはいつだったかな…
握られる手の温かみを逃したくなくて、ぎゅっと拳を作った…
その切なくて甘酸っぱい想いを思い出して目を閉じた。
男同士…
歴史の中で、男色が推奨された時代がなかったわけではなかったけれど、自分の想いが異質なのだと言う事は分かっていた。
だから、オレは『天野祝』に何も言わなかった。
言えなかった。
気持ち悪いと、思われたくなくて…
初めての精通の時、夢の中の相手が『天野祝』だと知られたくなかった。
ずっと…
ずっと…
そう言う目で見ていたのだと…
不貞腐れたのがありありと分かる足音が近づいてくるから、オレは目を開けた。
過去の想いと共に浸っていた昔の記憶からいきなり現代に戻され、眩暈を起こしそうになって傍らの机に手を突いた。
足音だけで、わかる。
がらりと開けられた扉の向こうに立つ生徒にどきんと胸が脈打った。
「津田は?」
それを悟られないように、平静を装って聞くと…
「帰りました」
goodjob!!
nice!!
「そうか…しかたないな」
全然しかたなくなんかない!
むしろオッケー!
…岡田は不貞腐れてたけど、オレはすごく嬉しい。
同じ空間に、好きな奴といられるのって…幸せに感じる。
もっとも…それはオレの一方通行か…
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