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聞いてみたい
そう言う思いと、
聞いて気持ち悪く思われたら?
と言う気持ちが交互に主張を繰り返す。
いや…記憶があるなら……もっと、何かアクションがある筈だ!
入学式で出会ってからこちら、それらしい素振りはないし…気のせい……だよな。
言い聞かせて首を横に振ろうとした時、からりと軽い音をさせて扉が開いた。
職員室でいつも目にする顔がそこからひょっこりと覗く。
久米先生だ。
若い女教師がこの学校には少なくて、他の先生方は目の保養だと言い合っている先生だ。
何か用かな?…と思いながら立ち上がる。その時にちらりと岡田を盗み見てみて後悔した。
岡田の、ちょっとにやけた顔がそこにあった。
…そりゃ……岡田は健康な高校生男子だし、久米先生が美人なのも知ってる。だからって見惚れるとかどうなんだ?
イライラっと、意味のないやきもちがむくむくと頭をもたげて…きっとオレの顔は引き攣ってかっこ悪い状態になってるんだろうな…
「日野先生、皆で呑みに行こうかとお話が出てるんですが、いかがですか?」
「……え?この後ですか?」
お酒は苦手で…正直行きたくない。
教師と言う人種は酒が入ると豹変する人が多くて…それも苦手だ。
苦手なものから逃げてちゃいけないんだろうけど…嫌なものは嫌だし!
あ!と思いついた。
岡田がいるじゃないか。
なんの角を作る事もなく断れるんだから!
成績の悪い生徒の面倒を見るのは、りっぱな言い訳になる!
「あー…でも、今補習中で…」
「日野先生、あまりこう言う事に参加されないから…」
やや困ったようなそぶりを見せる久米先生に、
「そうですね、じゃあ…」
と言葉を続けた。
「次回は必ず参加しますよ」
それでとりあえずは納得してもらうしかない。
飲み会に参加したくないし…何より今、この時間を優先させたい。
笑顔に力を籠め、さっさと久米先生にお帰りいただく事にする。
「それじゃぁ、楽しんできてくださいね!」
そう言って話を切り上げてしまえば、久米先生は何か言いたそうな顔をしていたものの引き下がるしかなく…速やかに退散してくれた。
さぁ!再び二人きりだ!…と振り返ると、岡田がそそくさと筆記具を片付けているのが目の入った。
え!?
ええ!?
ちょ…まだプリント終わってないだろ?
まだ、……二人で居たい。
ナニ気を利かせてんだ?
お前そんな気の利くタイプじゃないだろ!?
ストーップ!ストップ!
真っ白な頭じゃとっさに言葉が出なくて、オレは急いで岡田の隣の椅子に座った。
ぎょっとした顔が、こちらを見る。
「何片付けてるんだ?まだ終わってないぞ?」
「へ?」
「ほら、筆記具を出して」
「いや、だって……久米は?」
「久米先生は?だろ」
岡田の口から久米先生の名前が出てきたのがなんだか嫌で…素直にこれが嫉妬なんだろうなと感じながら岡田が再び筆記具を出すのを手伝った。
「なんか…誘われてたんじゃねぇのかよ」
ちょっと拗ねたようなその顔は、早く帰れると思ったのが違ったから?
それとも、久米先生が行っちゃったから?
オレは岡田と居たくて仕方がないのにな…
「お前を放っておいて行ける訳ないだろ?」
そう言うと、岡田はなんだか複雑そうな顔をした。
…それは嫌がってる顔か?
男にこんな事言われたら…当然か。
「この壊滅的な点数を何とかしないと…おちおち誘いにも乗れないよ」
慌てて付け加えると、あからさまに…あからさまにっ!ほっとした顔になった。
それがさらにムカついてムカついて!オレは思わず岡田の頭に拳骨を落とす。
ごん…といい音がして、ああ、岡田の頭の中は空洞なのか?とつい思ってしまう。
「あだっ!!」
「やる気入ってない!後30分で校門しまっちゃうだろ?」
オレの予定では、早く補習プリントを終わらせて、二人でコーヒーを飲みながらいろいろな話をするはずだった。
提出された身上調査票だけではわからない事を根掘り葉掘り聞いて、間近で観察して、今夜のオカズに……するはずだったのに…
岡田の頭は思ったよりも悪いのか…
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