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蜘蛛の糸より細い事実でも、共に桜を見たと言う事実が欲しかった。
「見て見て!」
頼むから、呆れないで欲しいと…
「んだよ?」
刺々しい声に…怯む。
でも、精一杯にはしゃいで見せた。
「桜」
声は震えていたし、怖くて岡田の顔を見る事は出来なかった。
祈りながら来た道を引き返す。
かつて、こうやって過ごしていたのだと…
思い出してくれやしないかと…
願って…
「桜、あったな」
汚れた水に浮かぶその花びらを桜と呼んで合わせてくれる優しさが、俯いたオレの耳を優しくくすぐる。
変わっていないんだ…
こうやってオレの無茶を苦笑しながらも受け入れて、寄り添ってくれる。
『天野祝』も岡田も…
やっぱり、大好きだ。
恨めし気に衛人が圧し掛かってくる。
「なーなー!どこ行ってたんだよぅ~」
「………」
「朝起きて兄貴いねぇし、誘拐されたのかと思って警察に行こうか迷ってたんだぜ?」
「………」
「ちょ…まさか女と逢ってたとか言わねぇよな!?」
「………」
「兄貴は俺のも……ぶっ!!」
五月蝿い口に裏拳を見舞ってからまたパンフレットに目を落とす。
今日行ったジェラートの店…美味しかったなぁ…
岡田と一緒だったから、特に美味しかったんだろうな。
「…また……誘えないかなぁ…」
「昨日は、ありがとうな」
教室移動の最中の岡田を見つけてチャンスだと思った。
『廊下は歩きましょう』の標語を完全に無視して傍へ駆け寄り、昨日の事を話題に乗せた。
そうすれば、教師と生徒ってだけの会話より、ちょっとだけ近くに寄れたような気がしたから…
「俺も楽しかったし、サンキュ!」
桜も咲いてなかったし、散々連れまわしてジェラート一つじゃつまらなかったろうに…
岡田は嬉しそうにお礼を言い返してくれた。
え!?ちょ…
何?
反則的な笑顔!
「ご褒美も上げたし、中間は頑張れよ」
にやけるのを誤魔化したくて言った言葉に、岡田は視線を逸らした。
「お前なぁ、実はやればできるんだろ?」
「で…できないよ」
ワザとらしい物言い…
もしかしていつも、あえて間違えてるのか!?
「俺になんか嫌がらせしてるだけじゃないのか?」
「ち、違う!あれは、ご褒美があったから…」
…ご褒美があったから頑張れたって…どれだけ単純なんだ…
『天野祝』は落ち着いていて、大人びてたけど…うん。やっぱり違うんだな。
まだ子供だもんな…
じゃあ、また……物で釣れる?
教師にあるまじき考えなのは分かってはいたけれど、チャンスを逃すなんてしたくない。
「…今度、赤じゃなかったら、またなんか奢ってやるから」
ぎょ…とした雰囲気。
え?嫌がられた?
「わかったか?」
「えっ!あ、うん!」
その「うん」が、真っ赤な顔で言われたから…
なんだかこちらまで照れてしまう。
「ばれたら…怒られるから、内緒だぞ?」
「い…いいのか?」
個人的にはメチャクチャOKなんだけど、ばれたら本当によろしくない。
「いいわけないだろ。まったく」
建前上そう言いながら、オレは次に連れて行けそうな場所をぼんやりと考えていた。
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