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 あの頃から変わらない、オレを心配してくれる目がオレを見ている事に気が付いて…  すとんと憑き物が落ちた。 「……お茶ぐらいなら、出してやる」  そう言うと、ぱっと華やかな笑みが零れ…  どくんと心臓が大きく波打った。  泣きたくなるくらい…岡田が好きだ。  傍に、居たい。  でも、ずっと傍にいるって事は、教師と生徒って接点しかないオレには無理な事で…  オレにできるのは、雑談に紛れて 「好きな奴、いるから…」  そう告白する事だけだ。 「岡田はどうなんだ?」 「え?何が?」 「お前も、片思いって…言ってただろ?」  そう言うと、岡田は「あ…」と言葉を切った。  逡巡。 「失恋したから…」  え?  あ…  久米先生との事を見たから?  誤解なんだけど…  どうしよう。誤解させておきたい。 「また、どこかに行くか?」 「へ?」 「岡田が元気ないのも、変な感じがするし…」  言い訳だ。  でも、つけ入れるならつけ入りたい。  久米先生に抱いた昏い感情と同じではないけれど、やっぱり昏い思いで岡田を慰める言葉を口にした。 「気分転換にドライブでも連れてってやろうか?」  止めろ…と、何度繰り返し叫んだか分からない。  『天野祝』が部屋に入ってきた時の表情で、彼が何かを決意しているのが分かった。  手に持った刃物が何を意味するかなんて…  でも泣きながら喉に刃物を押し付ける姿に、  オレは…  実は昏い満足も覚えていた。  日食前後は特によく昔の事を思い出すし、夢にも出てきた。  やっぱり少なからずトラウマになっているのかなぁとも思うけれど、今はそれよりも授業が円滑に進まない方が重大だ。 「津田は!?」 「来てませーん」  あいつ~っ!!  昨日あれ程念押ししておいたのにっ!!  …よし!やる気はなさそうだけど岡田は来てるな。 「はい、それじゃあもうすぐ始まるからグランドに出て」  そう声を掛けてぞろぞろと出て行く生徒の流れを見る。  …気にはしない筈なのに…どこか気が重い。  岡田は、こんな日には何か感じたりするのかな? 「日食は、太陽と地球の間に月が入る事で起こります」  そう説明していく。  きょろきょろと辺りを見渡すと、さっきまで見なかった顔が岡田の傍にいる。  せめて同級生なら、ああやって傍に居れたのかなぁ…  くそ!羨ましい!  離れろっっ!  そう念じながら日光グラスを渡す振りをして近づく。 「あれ!?津田、来てたの?君の分、科学室に置いてきちゃったよ」 「ええ!?俺見れない!?」 「ごめんっ今から取りに…行って…間に合うかなぁ…」  取りに行って来い!…と言おうと思ったら、岡田がグラスを津田に押し付けた。 「これ使え。取りに行ってくる」 「岡田が見れなくなるよ?」  え!?  せっかくなんだし…一緒に見たい…

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