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 そう思って校舎に行こうとした岡田に追いすがる。 「別に見れなくたって…珍しいもんでもねぇよ」 「珍しいよ!」 「後でネットで見るよ」 「臨場感って大切だと思うよ!!」 「地球ができてから、どれだけ日食があったと思ってんだ?」 「でも!今回のは今回だけだよ!?」  もう次に起こる時には…岡田の記憶の中にすら、オレはいないのに…  不吉の象徴だったけれど、オレにとっては一番印象に残っている出来事で…  校舎に入ったオレの耳に、わぁ…と声が聞こえた。 「あ…」  そうか、始まったのか…  桜も見れなかった…  そして日食も…  こうやってちょっとずつすれ違って、オレと岡田の人生は重なる事がなくなって行くのかな… 「わっわ…!?」  グラスを持った岡田にぐんっと手を引かれてよろける。  何だ!? 「運動場は反対…っ」  ぐいぐいと手を引かれ上がってきた階段とは反対方向へ向かうと、普段は使われる事のない屋上への階段を駆け上がった。  夏が近いせいか、階段を上がった岡田の手はほんのりと汗で湿っている。  その生々しい感触と体温が、彼が生きているのだと教える。  じわりと…愛おしさが湧く。  生きていてくれた…  オレの後を追うと言う暴挙は、昏い喜びは与えてくれたものの、尽きて行く『天野祝』の命を感じていたオレに絶望を与えもした。  爛漫な笑顔が振り返る。 「こっから見ようぜ」 「でもっ」 「いいから」 「だって」 「絶対、校庭から見るより近い分イイって!」  そう言って引き寄せられ、押し切るためにか至近距離で顔を覗きこまれる。  愛しい…  愛しい… 「な?」  愛している相手からの我儘って言うのは、男ならどんなことでも叶えてやりたくなるもので… 「内緒なら…」  泣きそうになった表情を笑顔で誤魔化し、二人で鉄の扉に飛びつき、示し合わせたかのように顔を見合わせる。 「「せーの」」  きぃ…と開かれた重い扉から洩れる空気は、初夏のそれの筈なのにどこかひんやりとした物を含んでいた。 「わ…涼し…………ぁ…」  やっぱり一番に空へと視線が行く。  まだそんなに時間が経っていないために変わらないかと思ったそこは、ゆっくりと陰り始めていた。 「わぁー…」  天体ショーだ。  誰だ?  こんな素敵な事を不吉だって言ったのは!  首が痛くなるので休憩がてらに岡田を盗み見る…と、拳が胸へ置かれていた。 「岡田?どうした?ちゃんと観察しな……」  苦しいのか、いつもの溌剌とした表情はなりを潜めている。 「っ、お…岡田?…」  何故?  そんな苦しそうな顔をしている?  ふ…と、暗くなった空が視界の端に映る。  コレ…か?  彼は、日蝕が怖いのか? 「何?どうした?気分でも…」 「………」 「え?」

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