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そわそわと落ち着かない犬の鼻先に掌を翳す。
「待て…待てだ」
円らな瞳を見ながらそう言うと、直向きな視線をこちらに向けたまま小さくキュウン…と鳴いた。
餌が欲しくて涎を垂らしそうな犬に、征服欲を満足されながら「よし」と合図を送る。
餌を食い始めた犬を一撫でして立ち上がった。
奥の部屋の扉を開けてベッドに横たわる彼を見る。
男は小さく笑い、腕を鎖に繋がれて眠る彼の傍らに立ち、そっと瞼に掛かる前髪を払った。
ぴくり…と、彼の眉間が動く。
「起きるのか?」
なんと声を掛けようかと、興奮の抑え切れない頭で考える。
調教しようと手に入れたこの少年が、自分を見てどんな怯えた表情をするかを考えただけで、男の皮膚がざわざわと総毛立つ。
「……ぅ…」
呻きながら、彼がうっすらと目を開けた。
眩しさに戸惑うように瞼を震わしながら、ゆっくりと目を開けてこちらを見る。
ぱちりと、一度瞬いた。
「……あの…っ」
喋ろうとした彼の口を抑え込む。
「っ……だ…黙れっ!」
そう怒鳴りつけると、彼の目がはっと開いた。
「おま…お前は今日から、俺の…ぺ…ペットだ!わかっ……ぅあっ!?」
ゴッと耳元に響いた鈍い音と、感じたことのない衝撃に吹き飛ばされて棚へと倒れ込む。
「…あ……ぇ…?」
バサバサと頭上から落ちてくる本や小物類に頭を叩かれながら、呆然とベッドに体を起こす彼を見上げた。
「 ふぅん」
男の頭を蹴りつけた足をフローリングの上に下ろしながら、彼はキョロキョロと辺りを見回し、最後に床に踞る男に目をやった。
腕を拘束していた鎖を引っ張って壊すと、その手で男の胸ぐらを掴み上げる。
「犬連れてた奴か」
「あ…う……」
棚から零れた物の中に、懐中電灯を見つけて手を伸ばす。
「おっと……へぇ、コレ、カモフラージュ型スタンガンか…」
バチッと手の中のそれを放電させると、彼はなんの戸惑いもなく男の腹へと押し付ける。
「ああああぁぁぁぁぁぁっ!!」
腹から全身へと広がる衝撃に声を上げると、彼は満足そうに微笑んで手を離した。
体が痺れて床にくたりと倒れ込んだ男を踏みつけながら、乱れた棚を物色する。
「AVも本も…SMものか。いい趣味だねぇ」
「ぅ…あ……っ…」
ふんふんと隣の棚に目をやり、その中から黒い首輪を取り出す。
「ふぅーん」
ぷらぷらとそれを弄りながら男の傍らにしゃがみこみ、前髪を掴んで顔を引き上げる。
「なぁ、覚えてるか?オレが…」
乱暴に仰向けに転がすと、その黒い首輪を男の喉へと巻く。
「…でっかい犬が欲しいって言ったの」
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