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家事について、
生活費について、
二人の時間について、
一人の時間について、
秘密について、
そして、ケンカした時について…
同棲を始めた当初からあるルールもあれば、必要に応じて話し合ったルールもある。
今後、削らなくてはいけないルールも出てくるだろうし、増えるルールもあるだろう。
…そうやって一つ一つ積み重ねて行く…
コートを着込み、マフラーを手に取った。
手触りのいいそれは去年のクリスマスにアキヨシがくれた物で、寒さに弱いオレには必要不可欠だ。
「……んじゃあ、いってきます」
リビングに向かって言うと、アキヨシの頭が揺れた。
時計を確認したようだ。
オレは学生時代からバイトをしていたバーに就職していて、その仕事柄暗くなってから出掛ける。
普通の会社員であるアキヨシとは生活スタイルが真逆で…
オレにとっての朝飯であり、アキヨシにとっての夕飯の時間は、少ない一緒に過ごせる時間だった。
食後、のんびりとお茶を飲むのも、擦れ違いやすいお互いの溝を埋めるためだったのに…
ちらりとこちらに視線をやるアキヨシの態度に、何かがブチっとキレた。
「いー加減にしろよっ!」
思わず持っていたマフラーを投げ付ける。
ふわふわしたそれは、アキヨシに当たるか当たらないかの所でぐにゃりと失速して落ちた。
「下らない事でいじいじしやがって!もーお前なんか知るかっ!!」
そう怒鳴り付けて玄関へと駆ける。
背後でバタバタと足音が聞こえたが、気づかないふりをしてドアノブに手をかけた。
「っっっっっ…いってきますっ!」
どちらかが出るときは、見送って。
出ていく方はきちんと「いってきます」を言って出ていくルールだ。
この期に及んでまだ守ろうとしているオレもどうかしていると思ったが、普段やっている事をせずにいるとなんだか気持ちが落ち着かないと言う物だ。
バタンッと勢いよく扉を閉めてマンションを飛び出した。
時期が時期だけに吐いた息が白くなり、見上げた夜空は鈍い闇で覆われている。
ふと首元の寒さに気が付いた。
「マフラー…投げつけたんだっけか…」
ひんやりと骨に沁みるその寒さが心の隙間にも入ってきそうで、慌ててコートの襟を掻き寄せた。
階段を下り、かろん…と柔らかな木製ベルの音を立てて店内へと入ると、店長とその恋人であるケイトがカウンターの中からこちらを見やってから顔を見合わせた。
何か言いたげだ…
「…何か?」
「えーっと…まずは挨拶からだろ?」
「オハヨウゴザイマス」
朝ではないが、この店ではそう挨拶をしてから仕事に入る。
間接照明がムードを醸す店内を擦り抜けてバックヤードへと着替えに行くオレを追って、ピンク色の髪をふわふわさせながらケイトがついてきて…
「…なんだよ」
「機嫌悪いなぁって」
きゅるん…と媚びるように細められた目は何か面白い事…と言うか、厄介ごとを見つけて楽しむ時の目だった。
そんな顔にコートを投げつけて手早く着替える。
「ちょ、ちょ……!んもう!なんだよ!ホントに機嫌悪いなぁ!アキヨシさんとケンカでもしたの?」
このピンク頭は、まともに仕事も出来ないのに勘だけは良くて…
むぅっと睨みつけるときゃあきゃあ言いながら店長の方へと駆けて行く。
「キョウちゃん!アキヨシさんと下らない事でケンカして仲直りもせずに出てきたから機嫌悪いんだって!」
「勝手に決めつけるなよ!!」
そうバックヤードから叫ぶも、店長は苦笑しながらひらひらと手を振るだけだ。
「図星だってさ」
「でしょ?」
このカップルは普段仲が悪い癖にこういう時の息の合い方だけはピカ一で…
今はちょっとうらやましい…
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