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 今にも流れ落ちそうな程の雫を縁に溜めた目が瞬いて、観念して傍らに歩み寄ってくる。  泣く程嫌ならば、拒否すればいい物を。  この男だけならば、どこに再就職するにも困る事がないのは知っている。  ライバル社でも、懇意にしていた取引先でも……元の会社で社長の秘書としてやり直す事だって選べだ筈だ。 「 あの   」  目縁を紅に染めて、睨む俺を見つめ返す。 「準備を」  言われる言葉は分かっている筈なのに、はっと息を飲んで動揺を見せる。  その拍子に零れた雫が頬を転がり落ちてスーツの胸元に小さなシミを一つ作った。  男の頭の動きに寄り添うように、きぃ と椅子が小さく動く。  茶色い柔らかな毛が肌に当たる度にくすぐったく感じるが、そんな事がどうでも良くなる程その舌遣いは巧みだ。  不器用そうに見えて、俺の物をしゃぶりながら自らの準備をこなすのだから、この男の本性はこちらなのかもしれない。  綺麗な形をした双眸が、強請るようにこちらを見上げると、こちらの心の底まで見透かされているんじゃないだろうかと、落ち着かない気分になってくる。 「   んっ、あの  失礼します」  最初は扱い方も碌に知らなかったコンドームも、なんの戸惑いもなく嵌めるようになった。  そうしたのは自分自身のはずなのに、妙にその事が苛立って…… 「着けるな」 「えっ  でも  」  唾液か、カウパーかで濡れた口元が引き締まる。  赤い……赤い……艶めいた唇を舌がちろりと舐めるのが見えた。 「  じゃあ、俺の方だけ……汚すといけないので着けさせてください」  沈黙を肯定として受け取った男が、すでに起立している自分の物に手慣れた風にコンドームを着けるのを眺めていると、こちらの視線に気が付いたのか目元を更に赤らめて俯いた。  いまさら何を恥じらう事があるのかと問いかけた所で、こちらの納得する回答は得られないだろう。 「あの  失礼します 」  そう言って俺に跨る癖に、しがみつけばいいものを椅子の背もたれや肘置きに体重を預けてそろそろと腰を降ろしてくる。  その細い体ぐらいどうと言う事はないのだから、いつものようにさっさと跨げばいいものを、こう言うところで妙な初々しさを見せるのは、わざとなのかそうでないのか……  俺しか知らないアナがぷちゅ と先端に触れて音を立てる。  それだけで体を震わせて堪えるように息を詰めて恥ずかしそうに腰を沈め、声を堪える為か小さく唇を噛み締めた。  羞恥に耐える表情なのに、腰つきは別の生き物かと思える程ねっとりと動いて、俺を飲み込んで行くナカは蠢いて熱い。 「あ   ぁ、おっき  ぃ」  赤いソコが痛々しい程伸びて俺を飲み込んで、苦し気に声が漏れるのが堪らなく嗜虐心を煽られる。  苦しげに漏れているはずの声がいつの間にか嬌声に変わり、けれどもそれを羞恥と感じて堪える姿に得も言われぬ満足感と、どこまで堕ちるのか見てみたい欲求が首を擡げて……  俺の目を覗き込んで、小さな悲鳴のような唯々の喘ぎを漏らした。

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