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千年の愛を貴方に 2

「覚えてるんじゃないですか!お会いしたかったですよ!旦那様ー!」 「ああ、もう、うっさい」 「あーん旦那様~」  大男に科を作って擦り寄られ、俺は逃げることもできずにばたりとその場に倒れ伏した。  雪の中で項垂れるその美しい生き物に近づいたのは、もちろん下心があってのことだった。  この冬は特に訪れが早かったし、その割に薪や食料が手に入りにくく、俺は正直空腹で……そこに居たのがお釈迦様でも、もしかしたら食べるために近づいていたかもしれない。  雪に沈む俺の足音に気づいたのか、大きな羽が雪を掻き混ぜ吹雪を生んだような錯覚に陥るほどだった。  白銀の世界で、生きるためにもがくその姿は美しくて……  肉も摂れる  美しい羽も売れる  だと言うのに、俺はその華麗で、降雪にも負けずに凛とこちらを見据える生き物を罠から逃がした。  別に、その美しさに心打たれたわけじゃない、今ここでこれっぽっちの肉と羽を手に入れたところで、俺がこの冬を越せないのはわかりきっていたから、極楽とやらに行くために無駄な殺生は控えようって思っただけで……  こと こと と小さな物音と出汁の香りが漂ってくる。  そろりと目を開けて六畳一間の小さく古いアパートを見渡してみると、大きな背中を小さくすぼめた男がトントントンとリズムよく包丁を動かしているのが見えた。  ……今世も、来たのか  俺が約束を守らずに隣の部屋を覗いたばっかりに、ツルはどうやら……開き直ったらしかった。  正体を隠すでもなく、むしろ全身を見てくれとばかりに全裸待機されていた時もあったので、俺は初々しさと言う言葉の重要性を良くわかっているつもりだ。 「あっ旦那様!気が付いたんですね!」  包丁を放り出してやはり飛びつこうとしてくる男を躱し、寝かされていたせんべい布団から起き出す。 「急にぐったりするから心配したんですよ!」 「元凶が何を言う」 「違いますー!栄養失調と過労ですー!」  そう言いながら差し出されたコップを受け取って中の水を飲み干す。 「あー……とにかく、お前  」 「今世はグルーオって呼んでください!」 「ぐるお?は国に帰れ」  甲斐甲斐しく俺から空のコップを受け取ると、ぐるおは「え⁉」と大袈裟にショックを受けて見せる。 「一家に一匹、いないと困りますよツル」 「いなくても困んねぇよ」 「空間埋めるのに絶対にいりますって、お役立ちですよツル」 「ただの邪魔じゃねぇか」 「そんなことないですって、コート掛けにも使えますよツル」 「ツルツルツルツルうるせぇよ」 「ニャンに対抗してみました」 「ツルは鳴き声じゃないだろ」  はぁー……と長い息を吐いて立ち上がり、洗濯物を積み上げていた一角は綺麗にすべて畳まれて種類別に置かれていて、俺の草臥れた部屋には似つかわしくない整った状態になっていた。

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