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千年の愛を貴方に 3

 俺が倒れている間に、掃除に片付けにと動き回ったんだろう。  こざっぱりとした部屋の中はいつもの部屋なのに、よその部屋に来てしまったのかと思えるほどに綺麗だ。  やっぱり、ため息が出る。 「片付けてくれてありがとよ、もういいから帰れ」  そう言うとぐるおは神妙な顔で肩を竦めて首をふるふると振った。 「…………たった一度、罠から助けたにしちゃずいぶんと恩を返してもらった、だからもういい」 「ツルの恩返しは千年保証です!」  むきむきの腕に力こぶを作って見せるぐるおを置いて、もそもそと畳まれた服の中から着替えを探す。 「旦那様はお出かけですか?まだ外は暑いのでもう少し涼んでから  」 「しかたねぇだろ、仕事なんだから」 「ではお供しま  っ」  脱いだ部屋着をぐるおに向けて投げつけると、はっとした顔をして口を噤んでしまう。  気まずそうに、ちらちらと青い目でこちらを見るのをあえて無視すると、萎れた花のように小さく体を丸めて項垂れた。  その姿に、罪悪感が沸かないわけじゃないが…… 「俺が仕事行ってる間に出て行ってくれ、鍵はそのままでいい」  どうせ盗むものもないから って言う言葉は飲み込んだ。  そんなの、こんなボロアパートの空っぽな部屋に住んでいる段階でわかりきったことだ。 「では、せめて食事だけでもっ塩分も摂らないと熱中症になります!」  慌てて台所に向き直り、マグカップに味噌汁を注いで持ってくる。  可愛さの欠片もない大男が小首を傾げて差し出してくるそれを、断ればよかったのに手に取ってしまうのは懐かしい匂いがしたからだ。  ずいぶん昔から現代まで、何度も口にしたそれは材料も何もかも変わっているはずなのに、口に含んだ時に香る優しい味は変わらないままだった。  変わらないまま、こいつはいつまで俺の傍にいてくれるのだろうか? 「ごっそさんっ!じゃあ!いいか⁉出て行けよ?」  力強く扉を閉めると建物自体が軋むような錯覚に陥って、はらはらとしながら後ろを振り返るもアパートは崩れ落ちたりはしなかった。  築……俺の親と同じくらいのこのアパートに住む前はもう少しマシなとこに住んでいて、もう少し暮らしぶりもマシだったのだけれど……    ◇ ◇ ◇  扉が勢いよく閉められて、建物がその勢いを殺しきれずにミシリと音を立てたから、思わず頭を庇って建物が崩れやしないかと様子を窺った。  幸い、そこまでガタが来ていると言うわけではないらしい。

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