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初恋のオムライス 2
母が戻ってくるまで中華料理屋にいたオレは、夕飯を食べ損ねたってこともあってお腹をグーグー鳴らしていて、「お腹空いただろ、何か食べるか?」って言うお兄ちゃんの言葉に素直に頷いて「オムライスが食べたい」ってぽつりと言った。
今になって考えると中華料理屋でオムライスとか言われても困るだろうに、オレの面倒を見てくれた兄ちゃんはなんの文句も言わずに卵の焦げたオムライスを差し出してくれて……
まぁ、オレはそれにまずいって言ったわけだけどさ。
欠食児童……と言うわけではないけれど、とかくこの年齢の男って奴は常に空腹なわけで。
「唐揚げと、ラーメンね!」
そう言いながら隣の椅子に教科書で重い鞄を放り投げると、中華料理屋のおっちゃんが新聞からちょっと目をずらしてオレを窺った。
「オムライスは言わなくてもいいよね?」
「だよな。よく食べるねぇ」
「成長期だし」
そう言っておっちゃんの出してくれたおしぼりで手を拭いていると、おっちゃんは奥に向けて声をかける。
……と、言うことは奥に兄ちゃんがいるわけで、そわ としてしまうのは兄ちゃんが大学に行き始めてなかなか会えなくなってきたからだ。
朝の時間も違えば帰りの時間も違って、時には帰ってこないこともある。
このマンションの二階に住んでいるのだからもう少し出会えそうなものだけれど、年の差って言うのはなかなかに大きくて、オレと兄ちゃんの会える時間って言うのがぐっと少なくなってしまったのは事実だった。
「おー……今日もオムライスかよ」
いらっしゃい とか、そんな言葉の前にまずそのセリフは店屋の人間としてどうかと思うけど、ちゃんとその後に付け加えてくれるから許すことにする。
「今日は早くねぇか?」
卵を取り出しながら言う兄ちゃんに頷き、「今日は部活が早く終わって」と告げた。
「ふぅん」
聞いておいて兄ちゃんはそのことにさほど興味を持った様子はなくて、オレのことに興味があったと言うよりは、社交辞令?それとも間を持たすための会話の糸口だったのかなって……
「今度、陸上の記録会があってさぁ」
「あー……なんかそう言うのあった気がするな」
「でしょ!んで、あのっ時間あったら次の日曜なんだけど応援し 」
「卒業課題で忙しいからムリだな」
出会った頃には声変わりで掠れていた声は、今じゃすっかり落ち着いて大人の男の低い声だ。
その声が興味なさげにばっさり切り捨てるから、オレはちびりと水を飲むふりをして口を塞ぐしかない。
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