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初恋のオムライス 3
「部活がないなら遊んでこいよ。彼女の一人二人作れば?そんで、もうちょっと世間を学べ」
「…………なんで、そんなこと言うかな」
そう呟いたけれど、兄ちゃんは聞いていない。
こちらに越してきたばかりの小さな頃は、それこそ初日に自分を救ってくれたヒーローだったからべったり引っ付いて回っていて、兄ちゃんもそれを邪険にするようなことはなかったし、よく遊んでくれたり勉強を見てくれたりして面倒を見て貰った。
兄ちゃんの友達と遊ぶのにも連れて行って貰って、オレの席はいつも兄ちゃんの隣で、いつも手を引っ張ってくれて……
────だから、オレはずっと兄ちゃんの、『特別』なんだって思ってた。
高校に入って部活で朝早く出るようになって、まず朝に会わなくなった。
大学に入って研修や課題のためだって、夜もなかなか会えなくなって、
卒業課題がどうのこうのって言って、お店にいること自体がなくなって……今じゃ、こうやって顔を合わすのも、本当に時々になってしまった。
「ほらよ」
カウンター越しにドン って出されたそれは紛れもないオムライスだ。
お皿じゃなくてどんぶりに入ったそれにきらりと目を輝かせると、それと同時に腹の虫がグゥと店に響き渡るように鳴る。
「…………」
視線を逸らしてみるけれど、兄ちゃんのからかうような「ひひひ」って笑い声が追いかけてくるから、しかたなく真っ赤な顔で睨みつけた。
「条件反射なんだよぅ。兄ちゃんのオムライス見ると腹が勝手に鳴っちゃうのっ!」
「そーかよ」
ひひ って、殺しきれない笑い声を漏らしながら、兄ちゃんは厨房の端に置いてあった上着を羽織って鞄を肩にかける。
「あれ?出かけるの?」
せめて、食べている間くらいいてくれるかなって、思ったんだけど。
「バイトの時間」
「バイトって、ここじゃないの?」
「ここのは親の手伝いだって」
「えっじゃあドコ?どこどこどこ⁉オレ、いってみたーい!」
思わずレンゲを放り出して詰め寄ろうとするオレの鼻先に掌が突き付けられて、
「お子様厳禁の店なんだ」
ってからかうように言って、また人を小馬鹿にしたような笑いを漏らしながら行ってしまった。
「 もーっ」
「あれー?あいつもういっちまったのか?」
おっちゃんが唐揚げを出しながら呻くように言う。
「バイトって言ってたよ」
「バイトつって、まだ早ぇだろうに……今から忙しくなるんだからいつもみたいに手伝ってから行けよ」
ぶつぶつと言いながらラーメンを作り始めるおっちゃんに、「いつも?」って言葉をかける。
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