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君をひとりじめしたい 3
彼は僕だけ見てればいいし、僕の傍にだけいればいいし、僕のことを……
「 僕のこと、だけを、見てくれたら いいな」
立ち止まって足元の枯れ葉を蹴り飛ばした時に零れた言葉に口を押える。
葉が落ちる音だけがカサカサと聞こえるだけで、他に誰もいないのはわかっているのに辺りをきょろきょろとして、誰にも聞かれなかったことにほっと胸を撫で下ろす。
自分が呟いた言葉を思い出すと、冷たい風が吹いてくるのになんだか胸の内の方はくすぐったくて。
「昔から、独り占めしたかったのって、コレなのかなぁ」
困っていると彼が助けてくれるから、
泣いていると君が慰めてくれるから。
だから、
君に構って欲しかったから……
「 ────ねぇ!」
勢いよく声をかけられてびっくりしたせいで思わず鞄を放り出してしまった。
枯れ葉の上に落ちる鞄を目で追って、拾い上げたいなって思ったけど声をかけてきた女子に気圧されて、それを拾うのは後回しにするしかなさそうだ。
「な、なに?」
胸の前で、ピンクの指先をもじもじさせているのはさっき教室で彼と話していた子だ。
「あの、さ」
あれから僕を急いで追いかけてきたからか、彼女の肩は跳ね上がって、涼しい季節だって言うのに額にはうっすらと汗が滲んでいる。
あの時、彼とこの子は何を話していたんだろうか……
二人の会話の内容を と言うより、彼が何を話していたのかが気にかかる。
彼は顔を真っ赤にして、何を話していたんだろうか?
もうすぐ卒業だし、第二ボタンが欲しいとか言われた?
もしかして告白 とかされたりしたのかな?
目の前の彼女は何も話さないまま立っているだけで、僕の嫌な想像ばかりが膨れ上がってきて……
もしかして、付き合うようになったって報告だったら って胸の内が冷たくなった瞬間、背中にドン って衝撃があって、踏ん張り切れずによろけるように放り出されたままになっていた鞄の上に倒れ込んだ。
「きゃっ」
「ぃ てて……」
なんなんだ とか思うよりも前に、僕にしがみついているのが誰だかわかってしまった。
だって、小さい頃から馴染んだ匂いがしたから。
「ダメっダメだ!ダメダメっ!」
追突されてよろよろの僕は何もわからないままぎゅうっと抱き締められて、目を白黒させるしかない。
「なしだ、なしっ!」
「なんでよ!いいって言ったのに!」
「やっぱなしなんだよ!」
「嘘吐きっ」
「嘘じゃねぇよ!急にっそのっっ……ダメになっただけだしっ」
そう言って肩をすくめてぷちぷちと爪を鳴らして見せるから、きっと気まずい思いをしているんだってわかる。
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