4 / 5
キス
「な、なにっ」
「何って、さっきお預け食らったから。キス、したい」
「浅井って……キス魔?」
「鳴海にだけだよ。今まで我慢してたのに、付き合ってるって、しても良いんだって思うと、所かまわずしたくなる」
腰に添えられた手に力を込められて、距離を縮められた。
だからこんな所に連れ出したんだ、とそれがキス目的だと知ると、いつも飄々としていて、告白はされるのに付き合った姿は見たことがなかった浅井が、まさかこんな欲望をぶつけてくるなんてと思うとおかしくて、思わず笑みが零れた。
「何笑ってるの」
そうやって不貞腐れる顔も、学校では見たことがない。
本当に……本当に、俺の事、好きでいてくれてるんだ。
未だ現実味のないそれが、とても、とても、嬉しかった。
「……っ!」
そんな幸せを噛みしめている俺の唇を、さっと浅井は奪った。
固まる俺に、してやったりといじわるな視線を向けてくる。
悔しい、けどその誰にも見せない、俺だけに見せる表情を、もっと見たい。
そう思っていたら、俺の手は勝手に求めるように浅井の背中に回っていた。
昨日より強引で、余裕のなさそうな浅井。
段々体の力が抜けてきて、強張っていた顔の筋肉も緩んでいく。
すると、何やら温かなものが唇に触れた。
それはぬめりとしていて、俺の薄く開いた口から、入ろうとして。
「……っつ、今、舌……!?」
「入れるって、言ったでしょ?」
「でも、いつかって……」
「……嫌だった?」
「そうじゃない、けど」
「そんなにギュッとされて、必死に受け入れる姿を見せられて。煽られない方が、どうかしてると思うよ?」
そう言って浅井は、キスを再開させる。
入ってくる舌は俺の舌と絡んで、ピリリと何かが駆けた気がした。
くちゅりと、卑猥な音が漏れる。
その音が鳴るたびに出そうになる声を、必死に押し殺す。
女じゃないんだから、声なんて出したら引かれるかもしれない。
そうでなくてもここは外、抑えなきゃいけないのに、快感を引きずり出すように浅井は優しく、でも探るように、舌で俺を翻弄させた。
「はっ……っつ」
「……ここまでにしようか。これ以上やったら、止まらなくなるから」
もう、声を抑えきれないかもしれない。
切羽詰まったその状況を知ってか知らずか、浅井は漸く口を離した。
俺は、浅井との昨日のキスが初めてだった。
だからキスをしている時、呼吸が上手くできない。
一瞬離された口からしか短く吸えなくて、離された今、酸素を求めて口をパクパクとさせていると、浅井はそっと俺の髪を撫でてきた。
その手にあやされているうちに俺も落ち着いてきて、胸板に付けていた顔を上げる。
ともだちにシェアしよう!