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 少しだけ開けた窓から風が吹き込み、さやさやとカーテンを鳴らした。  夏の終わりの夜風は既にヒヤリと冷たく、秋が近い事を知らせているようだ。  叢で鳴く気の早い虫の声は、軽やかな鈴の音に似て。  夏の終わりを惜しむ風鈴の音にも似て。  チリチリ…  コロコロコロ…。  優しく心を掻き鳴らす。  幸せな夢の中に滑り込み、心地好さにたゆたう意識を引き上げようとする。 「…………………っん……」  穏やかな気持ちにさせてくれる、微かなコロンの香りが鼻を擽る。  安心をもたらす胸元に頬を擦り寄せると、背中を優しく撫でられた。 『………玲の…コロンの香り…。  フワッとして…安心する……』  なんだか嬉しくて口元を綻ばせた後、額に軽い口づけの感触がする。 「…れい……」  チュ。 「玲…、玲…」  チュ…。  呼ぶ度に口づけが落とされて、嬉しさと擽ったさに笑みが浮かぶ。 「好き………、……好きだよ……」  チュ。  大好きな玲。  愛おしい玲…。  呼べば呼ぶほど甘い口づけが降り注ぎ、瑠維はなんて幸せな夢なのだろうと思った。

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