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第一章・8
「それで、息子さんはどちらへ?」
「あの子なら、今は部活です。北陽学園の、今度2年生なんですよ」
ええっ! と、大声をあげるところを、雪緒は必死で止めた。
(僕と同じ学校!? しかも、同級生!?)
なぜ、今まで気づかなかったんだろう。
しかし、雪緒の学年は7クラスの大所帯だ。
校内で出会わなくても無理はない。
「ぼ、僕も北陽学園なんです」
「あらっ! そうなんですか!?」
そこまでで、他の客が入って来たので少年の母はそちらに気を取られた。
「いらっしゃいませ」
「あの、すみません。これを、息子さんに渡してもらえますか?」
祖母の家で焼いたマドレーヌが、チェック柄の袋の中には入っている。
マドレーヌの意味は、『君ともっと仲良くなりたい』だ。
しかし、花言葉には詳しい彼が、そこまで知っているかどうか……?
「すみません。あの子、凌介って言います。波多 凌介(はた りょうすけ)。学校であったら、仲よくしてやってくださいね」
「はい!」
(凌介。波多 凌介、だね!)
浮き浮きと、雪緒は店を出た。
新学期が、楽しみだった。
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