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第三章・6
周囲を見渡すと、誰もいない。
ごうごうと、沢の水音が響くだけだ。
「ったく、久保田の奴」
こういう時のための、班長だろうが!
「それから、草野!」
担任の草野は、陽キャな生徒たちと一緒に、先頭を切ってさっさと行ってしまった。
今ではもう、その大声も聞こえない。
「凌介、先に行って。コテージに戻れば、救急医療の人が来てくれるだろうから」
「そんな暇、ない!」
雪緒の足首は、痛々しく腫れてきている。
筋が切れたり、骨にひびが入っていたりすると大変だ。
「ちょっと、凌介。何を」
「俺が背負ってやる。ほら、負ぶされ」
「無理だよ、そんな」
「花屋の馬鹿力を、見せてやるよ」
ひょい、と凌介は雪緒を背負った。
大股で、しかし細心の注意を払って進み始めた。
(俺が転んだら、雪緒もただじゃすまないからな)
早く。
早く、治療を。
その一心で、がむしゃらに進んだ。
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