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第三章・7
(凌介の背中、広くてあったかい)
背負われて揺れながら、雪緒は心を温めていた。
僕なんか、放って行けばいいのに。凌介ったら。
「凌介、重くない?」
「てか、軽すぎないか? 雪緒、お前体重何㎏だよ?」
「53㎏」
軽い……ッ!
その、その軽さに、萌える……ッ!
「凌介、どうしたの? 大丈夫? 凌介?」
「お、おぅ。何でもない」
思わず妄想に耽ろうとしたところを、現実に引き戻された。
(とにかく、急ごう。もうすぐ、ゴールのはずだ)
「ねぇ、凌介」
「何だ?」
「ありがとう」
「何てことない、って」
二人きりの沢登り。
そんなロマンチックな言葉は思いつかない二人だったが、ささやかなぬくもりを味わった。
互いを想う気持ちを、確かめ合った。
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