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第四章・8

「あ、あのッ。なぁ」  声が上ずる。  凌介の手は、すでに雪緒のジャージにかかっている。  ゆっくりそれを下におろし始めると、雪緒は脚を動かして協力してくれた。 「何? 凌介」 (雪緒! 解ってるくせに!)  潤んだ雪緒の瞳には、凌介が映っている。  いや、もう凌介しか映っていなかった。 「俺、雪緒のこと」 「うん?」 「雪緒」 「うん」 (ああ! うまい言葉がみつからない!)  あなたの全てが欲しい、という花言葉はあったっけ? 「雪緒、ハナミズキの花言葉、知ってる?」 「こんな時まで、花言葉なの?」 「ハナミズキの花言葉は、『私の想いを受けてください』だ」  雪緒は、静かにうなずいた。

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