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第五章・7

「今日は、おんぶしてくれてありがとう。夕食運んでくれてありがとう」 「いいよ、いいよ」  暗くて見えないが、凌介は照れて赤くなってるに違いない。 「な、手ぇ握ってもいい?」 「いいよ」  雪緒の手が、凌介の布団に潜って来た。  あったかい、柔らかな雪緒の手。 「あ、ごめん。俺の手、荒れてるから気持ち悪いかな」 「ううん。花屋さんの手、だね」  固くて厚い皮膚に覆われた、凌介の手。  青い汁で、黒く染まった凌介の手。  そんな手に、雪緒はそっとキスをした。 「雪緒、ありがとう」 「こんな時にぴったりの花言葉って、ある?」 「ユキヤナギ、かな。『努力が報われる』」 「報われたの?」 「報われた」  花屋をしてきて、よかった。  おかげで、こんなに愛しい人に出会えた。 「明日はさ、山に登りながら写真とか動画とか、いっぱい送ってやるよ」 「楽しみにしてるね」  そんな話をしながら、眠りに就いた。  しっかりと手を握り合ったまま、幸せな夢を見た。

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