38 / 61
第五章・7
「今日は、おんぶしてくれてありがとう。夕食運んでくれてありがとう」
「いいよ、いいよ」
暗くて見えないが、凌介は照れて赤くなってるに違いない。
「な、手ぇ握ってもいい?」
「いいよ」
雪緒の手が、凌介の布団に潜って来た。
あったかい、柔らかな雪緒の手。
「あ、ごめん。俺の手、荒れてるから気持ち悪いかな」
「ううん。花屋さんの手、だね」
固くて厚い皮膚に覆われた、凌介の手。
青い汁で、黒く染まった凌介の手。
そんな手に、雪緒はそっとキスをした。
「雪緒、ありがとう」
「こんな時にぴったりの花言葉って、ある?」
「ユキヤナギ、かな。『努力が報われる』」
「報われたの?」
「報われた」
花屋をしてきて、よかった。
おかげで、こんなに愛しい人に出会えた。
「明日はさ、山に登りながら写真とか動画とか、いっぱい送ってやるよ」
「楽しみにしてるね」
そんな話をしながら、眠りに就いた。
しっかりと手を握り合ったまま、幸せな夢を見た。
ともだちにシェアしよう!