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第八章・5
「何だよ、黙るなよ。そういう雪緒は、俺のこと好きなのか?」
「好きに決まってるじゃん」
涙声の、雪緒。
凌介は、初めて後悔した。
浅はか過ぎた。
もう少し、何か方法があったんじゃないのか?
草野に復讐し、学校から追い出す方法が。
「あの、さ。よかったら、明日店に来てくれないか?」
「明日? いいの?」
「うん。渡したいものがあるんだ」
「行くよ、絶対。じゃあ、今夜はこれで切るね」
「ああ、おやすみ」
「おやすみ」
雪緒は、すぐに通話を絶った。
涙が、溢れてきそうだったから。
初恋が、こんな形で終わるなんて思ってもみなかった。
赤いマグカップのミニバラを見て、泣いた。
「でも、渡したいもの、って何だろう」
凌介のことだ、また花を渡して自分の気持ちを告げるに違いない。
「黄色いミニバラだったりして」
桃色のミニバラの花言葉を調べた時に、黄色も自然と眼についたのだ。
黄色いミニバラの花言葉は、『笑って別れましょう』。
「嫌だよ。始まったばかりなのに、もう別れるなんて」
僕がすがりついたら、凌介は迷惑かな。
「いや、それより。凌介を助けたい。何か、力になりたいんだ」
雪緒はデスクに掛けると、ペンを走らせ始めた。
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