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11 明砂(Aug.10th)
都積の自称探偵助手になった明砂は、累が勉強する時間や、シャワールームへ行く時間に、都積のもとへ行くようになった。
彼と落ち合う場所は、トレーニングジムが多い。
ここを利用する者達は皆、自分の世界に入り、トレーニングをしている為、話し易いのだ。
そこのベンチに二人並んで座る。
「今日で十日が経過したけど、何か変わった事はあった?」
都積に問われ、明砂は顔を赤らめた。
「時々、お腹が痛くなる時があって…。あと、朝、起きると、ズボンがよく濡れてます。おねしょじゃない奴で…。」
それを聞いた都積が、ぷっと吹き出した。
「腹痛は食べ過ぎが原因で、…ズボンは定期的にヌいてないから、そうなるんじゃないのか?」
明砂は即座に話した事を後悔し始めた。
「そ、そうですよね。でも、抜きたいって気持ちが、よく分からなくて…。」
都積が目を丸くした。
「高二男子で、一人でシたことないって言うのか?」
「無くは無いですけど、余りしたくない方なので…。」
「濡れてるって、透明のガマン汁的な…?」
「…無色です。」
明砂が真っ赤な顔で頷くと、都積は首を傾げた。
「そんな成分、入ってたかな?」
それを聞いた、明砂は驚いた顔になった。
「薬の成分を調べる事が出来たんですか?」
「うん。ちょっとした裏技でね。…食欲亢進の副作用があるヤツは幾つか確認出来たけど、精力剤とか、そういった効果のある成分はなかったように思われたな。まあ、不明な成分もあったから、それがそうなのかも知れないけど。」
「裏技って何ですか!?…摂取すると、自動的に解析出来ちゃうとかですか?」
明砂の想像が伝わったのか、都積は苦笑した。
「俺の事、ロボットかなんかだと思ってる?…詳しい事は文書で教えてあげよう。」
都積は仕込み道具のひとつである、ヘアピンに偽装したプラグコードを取り出した。そのコードで繋がると、明砂にひとつのファイルデータが届いた。保存したかったので、内部ストレージの中から、お気に入りの探偵小説を一冊消去する。
「今、見てもいいですか?」
「いいよ。その代わり、明砂の健康管理アプリを覗いてもいい?」
明砂が同意し、二人はお互いのデータに目を通し始めた。
10分程が経過して、都積が確認する。
「もう抜くけど、いいよね?」
明砂の了承と共に、首の後ろからプラグ端子が抜き取られた。
「何か気になるとことか、ありましたか?」
明砂は恐る恐る尋ねる。アプリ内のデータは自分でも確認出来るのだが、明砂は余り自身のログ等を、確認する方ではなかった。
「ここに来る前にアラートが鳴って、病院に検査に行ってるね。…でも、異常はなかったんだ?」
そんな事もあったと、明砂は思い出した。
「そうなんですよ。…誤作動だったみたいで。」
「そっか…。それ以外は、特に気になる点はないね。…俺のファイルは読めた?」
文書ファイルの最後のページを見つめていた明砂は、嬉しそうに頷いた。
「都積さんって、司季 って名前なんですね。」
そこには、都積のフルネームと探偵事務所の連絡先が書かれていた。
「うん。名乗ってなかったよな。」
「僕の事、信用してもいいんですか?」
明砂が神妙な顔をして問うと、都積も同様な顔で、明砂を見つめ返す。
「うん。君は人を騙せるタイプじゃないしね。…そのファイル、もしも俺に何かあったら、その探偵事務所に送って貰いたいんだ。」
明砂は驚いて息を呑んだ。
「都積さん、何かするつもりなんですか?」
都積は否定するような笑みを浮かべたが、直ぐに真顔に戻した。
「俺はね、近い内にここを出る。…その方法は、多少、荒っぽい事をする可能性が高い。…まだ調べる事があるから、もう少しの間居るけど、それが終わったら、後は外からここの関係者を調べてみるつもりだ。…明砂はクラッキングは出来る?」
「ハッキング技術については、授業で習ったレベルなので、高度な事は出来ません。」
都積の期待に応えられないと、明砂は肩を落として答えた。
「まあ、そうだよね。…それじゃ、ここを出てからでいいから、何かあった場合、連絡してくれよ。」
都積は横に置いていたスポーツドリンクのボトルを、明砂に差し出した。
ボトル自体は、この施設の支給品だ。
「あげるよ。君も出来れば、薬は飲まない方がいい…。」
明砂がボトルを受け取ると、都積は立ち上がり、去って行った。
それを見送った後、明砂はその場でボトルの蓋を開け、中身を確認する。そこには数枚の透明フィルムが入っていた。
それが都積の言う、裏技で使うアイテムなのだった。
投薬の前に、この特殊材で出来たフィルムで舌を被うと、それが薬剤を全て吸収してくれるのだという。その後、剥がして検査キットに入れれば分析が出来ると、都積のファイルに書いてあった。
――傷隠しのバイオテープ…みたいなものかな?
明砂も立ち上がると、その場を後にした。
一旦、宿泊スペースにある自室へ入った明砂は、着替えを持ってシャワールームへ足を運んだ。
ボックスタイプの個室が七つあり、空いているひとつに入った。狭いが、脱衣スペースもある。
全裸になり、霧状のシャワーを浴び始めた明砂は、間もなくして、隣から聞こえる音に意識を持っていかれた。
それは人の息遣いで、どこか苦しそうでもある。
顔の見えない相手を心配した明砂だったが、息遣いに混じって聞こえる、皮膚を擦るような音に、ある疑いを持った。擦り洗いをしているにしても、その息遣いは怪しい。
――もしかして、一人Hしてる…?
誰なのかは分からないが、明砂は行為を想像してしまい、眉を顰める。
そんな表情とは裏腹に、自身の性器が突如それに反応した事に、明砂は気付いた。
――嘘…!?最悪!
自身に嫌悪した明砂だったが、次第に抑えきれなくなっていく。
――同性のなんて、見たとしても、興奮するワケないのに…!
それでも膨張するそれは治まってはくれず、明砂は仕方なく手を伸ばした。音に気を付けながら手を上下して、刺激を与えていく。
なるべく義務的にと、何も想像しないようにして手を動かした。
――ああ、もう、最悪…なのに…!出ちゃう…!
数分後、明砂は自身の手の中で果てた。確認して見ると、それはいつもより、量が多いような気がした。
今更ながら、射精時間が長ければ、絶頂感もその間、続くのだと気付く。
『…αの精子の量って、男女共に凄いらしいよ。』
そんな都積の言葉が脳内に再生される。
――αレベルに近付いたら、もっと沢山出せるのかな…?
それが本当なら、投薬を続けるのもありなのかも知れないと、迷いを生じさせた明砂だった。
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